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最強軍団ソフトバンク “圧倒的な強さの秘密”は「スタベン」にあった【日本一4連覇なるか】
posted2020/11/24 11:01
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
Hideki Sugiyama
エースや4番だけでなく、途中出場の選手が決定的な仕事をするのがホークスの強さだ。昨年の日本シリーズで幾度となく流れを変えた“インパクトプレーヤー”たちの働きに迫った記事を特別に公開する。
<初出:Number989号(2019年10月31日発売) 『<優勝ドキュメント>福岡ソフトバンクホークス「危機感が生み出す組織力」』/肩書きなどは当時のままです>
ホークスの“スタベン”陣には掟がある。
スターティングメンバーの選手たちが守っているとき、ベンチに残るスタベン(スターティングベンチ)の選手たちは前列で応援する。そしてスタメンの選手が攻撃のためにベンチへ戻ってくると、スタベンの選手は後列へ下がる。それはたとえ大ベテランの内川聖一といえども例外ではない。その理由を福田秀平が教えてくれた。
「前列は試合に出てる人たちが座ります。そこはもう、チームの決まり事ですね」
となると、レギュラーと控えに“上と下”があるように感じてしまう。しかしホークスのベンチを眺めていると、そこにあるのは上下ではなく、役割の違いだということが見えてくる。前列を譲るのは、遠慮でも謙虚でもなく、ただ淡々と仕事をこなす職人たちが揃っているからだ。川島慶三がこう言っていた。
「レギュラー陣は、控えの僕らがいるから常に気を抜けないんです。控えは、スタメンで出てる人を安心させちゃいけない。それが僕らの仕事だってことは、常に控えのみんなに言っています。監督やコーチも、考えて考えて、それでも判断が遅れることはあるんです。でも、そこで『それじゃ、準備できないよ、指示が遅いよ』と言い訳するんじゃなくて、自分で流れを読んで、早めに準備をして、僕らがカバーするという、そういうところがチーム力に変わって行くと思うんです」
“スタベン”の機能の仕方
ホークス、内外野の“スタベン”――彼らがこの日本シリーズでどう機能したのか、改めて振り返ってみる。
第1戦のスタベンは川島、明石健志、周東佑京、長谷川勇也、福田。3-1とホークスがリードして迎えた7回、先頭の松田宣浩がツーベースで出塁すると、すかさず代走に周東が出ていく。足のスペシャリストの登場にグラウンドの空気が変わる。内川が愚直なバントをピッチャー前へ転がすも、スコット・マシソンは周東の足が頭にあって三塁へ投げられない。ワンアウト三塁となって長谷川が代打に出ると、ジャイアンツはピッチャーを左の田口麗斗に代える。すかさず左キラーの川島が登場すると、川島はストレートのフォアボールを選んだ。ここで1番の牧原大成が偽装スクイズ、その間に川島が抜け目なくセカンドを陥れ、二、三塁となったところで牧原がセンター前へ2点タイムリーを放ち、ホークスは決定的な追加点を挙げた。さらにデッドボールを受けていたアルフレド・デスパイネに代わって代打に出た福田は、セカンドへゴロを転がして、俊足でゲッツーを防ぐ間に1点を追加。最低限の仕事を果たした。