スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
短期決戦と恐るべき異変。
MLBのポストシーズンはカオスだ。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2019/10/12 08:00
10月8日の第4戦、中3日で先発したヴァーランダーはまさかの4回途中4失点での降板となった。
意外性がポストシーズンの怖さ。
この意外性が、ポストシーズンの怖さだ。とくに、3勝したほうが生き残るという短期決戦では、年間162試合を戦い抜く総合力以外の要素が強く働く。運や偶然や時の勢いを軽視すると、とんでもない足払いを食わせられることがある。
逆にいうと、これら不確定要素をうまく味方につけたチームには、勝機が広がる。たとえば2018年のレッドソックス。新監督アレックス・コーラが、先発の柱だったクリス・セールやリック・ポーセロを惜しみなく救援に投入した采配は、いまも記憶に新しい。
ALDS第1戦ではセールが先発し、ポーセロが8回に救援した。第4戦ではポーセロが先発し、セールが8回に救援した。ポーセロはALCS第2戦でも8回に救援し、接戦を制するキーマンとなった。
もうひとり目立ったのは、ワールドシリーズ第3戦で延長12回から登板し、6イニングスという例外的な長さを投げ抜いたネイサン・イーヴォルディ(第4戦に先発予定だった)の奮戦だ。結果的には延長18回、ドジャースのマックス・マンシーにサヨナラ本塁打を許したものの、イーヴォルディの闘志はレッドソックス全員を鼓舞した。シリーズ制覇の原動力は、あのガッツにあったといっても過言ではない。
ヤンキースとしては「しめた」?
ところがヴァーランダーの場合、男気が空転してしまった。ここがむずかしいところだ。AJ・ヒンチ監督も、よもやヴァーランダーが乱打されるとは予期していなかったのだろう。リリーヴァーの急仕上げにてんやわんやのブルペンを見るだけでも、アストロズの混乱ぶりは明らかだった。これは尾を引くのではないか、と思った人は多いはずだ。
しかし第5戦、頼みの綱のコールが踏ん張り(8回を1失点。100球目でまだ99マイルが出ていた)、アストロズはかろうじてALCS(ア・リーグ優勝決定シリーズ)進出を果たした。
ここで気になるのが、先に進出を決めていたヤンキースの反応だ。2019年レギュラーシーズン、ヤンキースは対レイズ12勝7敗、対アストロズ3勝4敗という成績を残している。戦いやすい相手は当然レイズだったはずだが、ALDSが5戦までもつれたことで、アストロズの先発ローテーションはかなり狂った。
とくに第1戦と第2戦で、ヴァーランダーとコールの二枚看板が使えなくなったのは大きい。ヤンキースが「しめた」と感じてもおかしくはない。