スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
短期決戦と恐るべき異変。
MLBのポストシーズンはカオスだ。
posted2019/10/12 08:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
マウンドに立つジャスティン・ヴァーランダーの姿に精気がなかった。速球に凄味がなく、スライダーに切れがなく、カーヴが落ちない。こんなヴァーランダーの姿を見るのは、故障に苦しんだ2015年以来のことだろうか。
10月8日のALDS(ア・リーグ地区シリーズ)第4戦。自軍アストロズの意外な苦戦に奮い立ち、志願して中3日で先発した36歳のヴァーランダーは、初回からレイズ打線につかまっていた。
トミー・ファムには、左中間へのソロ本塁打を許した(チェンジアップが変化しなかった)。トラヴィス・ダーノーには、曲がらないカーヴを三遊間に運ばれた。ジョーイ・ウェンドルには、切れのよくないスライダーを右翼線に弾き返された。いきなりの3失点。7イニングスを1安打無失点に抑えた第1戦とは別人のような乱調だ。
アストロズ絶対優勢のはずが。
シリーズ開幕前の下馬評では、アストロズが絶対優勢だった。たしかに、選手の顔ぶれや投打のスタッツを見れば、彼我の差は歴然としている。第1戦をヴァーランダーで勝ち、第2戦をゲリット・コールで取ったときは、もはや勝負ありとさえ見えた。
ところが第3戦で、アストロズ先発三本柱のひとり、ザック・グリンキーが打ち込まれて流れが変わった。瀕死の状態だった弱小球団レイズは息を吹き返し、明日なき戦いを挑む勇気を取り戻した。負けてもともと、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、と考えたのだろうか、選手の顔つきにも生色がありありと蘇ってきた。
逆に、3連勝する予定だったアストロズは、泡を食った。グリンキーのあとにウェイド・マイリーを投入したのには首をひねったが、結果的には、9月の防御率が1.50だった新鋭ホゼ・ウルキデまでも、第4戦で無駄遣いする羽目になってしまった。
レイズごときに、という侮りもあったのだろうが、力ずくでねじ伏せようとした結果がヴァーランダーの緊急登板であり、思いがけないKO劇の招来だった。