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宇野昌磨が「楽しむ」と記した理由。
言葉に感じたスケートへの真摯さ。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byJun Tsukida/AFLO SPORT

posted2019/10/13 11:30

宇野昌磨が「楽しむ」と記した理由。言葉に感じたスケートへの真摯さ。<Number Web> photograph by Jun Tsukida/AFLO SPORT

10月5日のジャパンオープンでは個人成績169.09点とネイサン・チェンの189.83点に次ぐ2位となった。

世界選手権4位に涙、進むべき道の模索。

 開幕を前に自らのスタンスをあらためて語った宇野は、いつしか、周囲の寄せる期待を肌で感じるようになっていくとともに、心境にも変化が訪れた。象徴は四大陸選手権で優勝したあとだった。

「世界選手権で優勝を目指したいと思います」

 信頼するトレーナーからかけられた言葉、「昌磨には世界選手権で1位になってもらいたいんだ」に、「『1位を獲るのが、自分のためではなく、みんなのため、他人のためになるんだな』って思いました」と決意を新たにした。ただ、その世界選手権では4位にとどまった。

「自分は本当に弱いんだなと気づかされました。いちから成長して帰ってこなければいけないと思います」

 涙を流した。

 シーズン後には山田満知子、樋口美穂子コーチのもとを離れ、メインコーチを置かずに進むべき道を模索してきた。

「自分のスケートをとにかくみつけたい、探したいなと思います」

「1人」になって見つけた「楽しむ」。

 ロシアやスイスで練習を行ない、それぞれの地で指導を受けた。競技用のプログラム作りも従来と異なる過程を踏んだ。その末に見出したのが「楽しむ」だった。それとともに目が向いたのは、表現を大切にしたいという自らの思いだった。

「僕は小さいとき、高橋大輔選手に憧れていて、どこに憧れたかというと、表現。最近はやはり勝つためにはジャンプを跳ばなければいけないと考えたり、いつのまにか僕は、スケートをやるというよりも競技をやるようになっていた。もちろんスポーツなので競技で合っているんですけど、フィギュアスケートというのは、もう少し技術と芸術というのを兼ね備えたスポーツだと思います。もちろん僕はジャンプもこれからもおろそかにするつもりはないですけど、ちゃんと僕は両立していきたいなという思いがありました」

 新たな経験を積むことであらためて気づいた原点だったかもしれない。

「1人」となったことで生まれた出会いがもたらした、再発見であるのかもしれない。

 ただ、まっすぐに目を向け、静かに語る口調は、かえってその言葉を考え出すに至った彼の真摯さを伝えていた。

【次ページ】 楽しむのは、実は容易ではない。

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