プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
寡黙な男SANADAの静かなる野望。
「ライバル」オカダのIWGPに挑む。
posted2019/10/10 20:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「みなさんそろそろ、SANADAが中心の新日本を見てみたいと思っていませんか?」
SANADAは10月7日、後楽園ホールのリング上からファンに問いかけた。
現在、新日本プロレスの象徴であるIWGPヘビー級王者はオカダ・カズチカだ。そのオカダにSANADAは10月14日、両国国技館で挑戦する。今年、2度目の同王座挑戦で、シングルマッチでは今年4度目の対戦になる。
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「今、新日本の希望って、オカダじゃないし、棚橋でもないし、内藤でもない。ましてや飯伏、EVILでもない。これからはオレが新日本プロレス、いや、プロレス界の希望になって、引っ張っていく」
SANADAが狙うベルトは、あの1本のみ!
少し前の話だ――私は大阪のとある小さなバーのドアを押した。店はにぎわっていたが、カウンターに座っていたある1人の男に目が行った。その男の周りだけ、その独特の容貌と対照的に、妙な静けさを感じさせたのだ。SANADAだった。SANADAは眼で私に挨拶をかわすと、ウィスキーのグラスをゆっくりと口元に運んだ。
SANADAはマイクを握ることすら避けてきたような男だった。SANADAがマイクを手にして、一言しゃべっただけでファンが驚いてどよめくこともあった。そんな寡黙だった男が、今では堂々とここまで言うようになった。
SANADAが新日本プロレスに参戦してきたのは2016年4月だ。オカダとの初対決は同年5月の福岡だったが、オカダに翻弄された。それから3年半、SANADAは自分の立ち位置を確認するように着実に歩みを進めて来た。その成長ぶりはファンもしっかりと感じ取っていた。
SANADAはタッグではEVILと組んでIWGPタッグ王座を2度手にしたし、ワールドタッグリーグも2連覇しているが、シングルのベルトはまだ巻いていない。
「ベルトは欲しい」
でもSANADAが狙うのは「あのベルトだけが輝いて見えた」というIWGPヘビー級のベルトだけだ。
内藤哲也や飯伏幸太やジェイ・ホワイトら複数のレスラーが、インターコンチネンタルだの「2冠」だのと騒いでいるけれどもSANADAはその騒音の中には入って行かないし、行く意思もない。
IWGPヘビー級王座という1つの輝きだけにひかれているからだ。その気持ちがブレることはない。狙うのはIWGP一本だけだ。