野球のぼせもんBACK NUMBER
虚無感が漂ったホークスの勝因は、
工藤監督の苦しい決断と37歳CS男。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2019/10/09 08:00
CSファイナルステージ進出を決め、殊勲の内川と笑顔でハイタッチをする工藤監督
敗戦の中で感じた手応え。
CSファーストステージ第1戦。3-5の僅差ではあったが、どこか尻すぼみ感のある試合展開で敗れた。初回に先制された時点で嫌な気がしていた。先制された試合をひっくり返して勝ったのは8月22日のオリックス戦が最後で、以来11連敗をしていた。
しかし、工藤公康監督はこの敗戦の中に1つの手応えを感じていた。
「点を取られても、取り返した」
先制されたすぐ裏の攻撃でホークスは同点にしていた。そして第2戦、第3戦も全く同じような試合展開となった。
第2戦は1回表、第3戦では4回表に1点を失った。それでもホークスは直後の裏の攻撃で追いつき、この2試合はその後試合をひっくり返して連勝してみせたのだった。
「昨日も初回に先制をされたけど、すぐに点を取り返していた。だから、今日も『よし、よし、よし』と思っていたし、ベンチの中も暗くなることはなく声が出ていた。だから行けると思っていました」
工藤監督は最初の逆転勝ちを収めた試合直後に、明らかに潮目が変わったことを確信したかのように自信の笑みを浮かべていた。
松田と直接話したうえでの苦しい決断。
また、指揮官のタクトも冴え渡った。
第1戦で松田宣浩が不振と見るや、第2戦以降は三塁手にグラシアルを起用した。代わってスタメン入りした福田秀平は第2戦で決勝本塁打を放った。松田宣は今季で5年連続シーズン143試合フル出場を果たし、ペナントでは30本塁打を放ったチームの顔ともいえる存在だ。
「苦しい決断をしなければならなかった。本人とも話をした。悔しかったと思うが、ベンチでも大きな声を出してチームを盛り上げてくれた」
チームとして戦っている、個人の戦いではないとも工藤監督は口にした。
昨年のCSでも、ファイナルステージで松田宣を思いきってスタメンから外したことがある。ほかにも昨年はシーズン中には先発ローテを担った武田翔太や石川柊太を“第2先発”として起用したり、一昨年はシーズン無安打だった城所龍磨をスタメンに大抜擢したり、勝負手がことごとく的中してホークスを勝利に導いてきた。
これが現役時代に11度、監督としても3度の日本一を経験している短期決戦巧者の勝負カンなのか、持って生まれたヒキの強さなのか。
やはりファイナルステージでも工藤監督の一手が、勝敗の行方を左右するに違いない。