ラグビーPRESSBACK NUMBER
ラグビーW杯を、日本を楽しむ外国人。
2002年と2019年で変わったもの――。
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byGetty Images
posted2019/10/05 09:00
ハイタッチで出迎えた釜石を始め、それぞれのラグビーW杯会場では日本人の「おもてなし」があふれている。
融通が利かない。高圧的。不親切。
かつての神戸市立中央球技場が大改装を経て神戸ウイングスタジアムと呼ばれるようになっていた'02年のサッカーワールドカップでは、忘れられない思い出がある。
わたしが陣取った記者席のすぐそばで、ちょっと大きめのカメラを取り出した外国の(たぶんブラジル人)の女性記者に、ボランティア(こちらも女性)の方が噛みついた。
「ここは撮影禁止場所です。すぐにやめてください!」
「他ではそんなこと言われたことなかったわよ! あなたにわたしの仕事を邪魔する権利があるの?」
両者は一歩も引かず、一触即発というか、ほぼ掴み合いに近い状態に発展した。周りには制服組を含めた人垣ができ、どうにかこうにか騒動は収まったのだが、女性記者がボランティアに向けて投げつけた捨てぜりふ(英語)はいまも耳に残っている。
「あんた、警察官にでもなったつもり?」
この“事件”のインパクトは強烈だったけれど、実は、似たようなことはそこかしこであった。海外の記者から日本のボランティアに対する不満を聞かされたのは一度や二度ではなかったし、わたし自身、頭の中で「ブチッ!」と音がしたことが何度もあった。
融通が利かない。高圧的。不親切。
いまならばわかる。仕方がなかったのだ。なぜって、あの頃のボランティアにとって、まず大切だったのは自分の責任を果たすことであり、決められたルールを厳守することだっただろうから。
「近くまでご案内します」
今大会のボランティアは違う。
'19年10月3日のノエビアスタジアム神戸──もとい、今大会では御崎公園球技場という名称で使用されるスタジアムは、激しい雨に見舞われていた。今大会で初めて訪れるスタジアムだったということもあり、メディアの入口はどこかとウロウロしていると、若い女性ボランティアの方が「わかりにくいので近くまでご案内します」と言って、一緒についてきてくれた。
こんなこと、17年前は一度もなかった。しかも、今大会ではこれが初めてのことではないし、わたしに限ったことでも、対日本人に限ったことでもない。
自分たちに課せられたルールを金科玉条のごとく奉り、観客や報道陣に対しても厳格に適用することをためらわなかったのが17年前のボランティアだったとしたら、今回はルールよりも大切にしているものがある。