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<特別対談 前編>
室屋義秀(パイロット)×野村忠宏(柔道家)
「勝つには技術を体に“覚えこませる”んです」 

text by

別府響(文藝春秋)

別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu

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photograph byTadashi Shirasawa

posted2019/11/22 11:00

<特別対談 前編>室屋義秀(パイロット)×野村忠宏(柔道家)「勝つには技術を体に“覚えこませる”んです」<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

ずっと磨き続けたからこその“必殺技”。

野村 様々な経験を経た上で、メンタル面というか、自分の心をどういう風にもっていくのかというのがすごく大事ですよね。

室屋 そうですね。僕の場合は2009年のデビューまでは勢いだけというか、根性だけで来られたんです。でも、そこからどうしても勝てない、失敗が続くという時期が繰り返しありまして。それで「どうも自分の心の中、メンタル面が弱いのかな」ということにやっと気がついた。そこからトレーニングをして、色々と人にも教えてもらいながら自分の心をコントロールすることを覚え始めて、やっと成績が出てきました。そういえば現役時代の野村さんの柔道は常に一本を狙う「美しい柔道」とよく言われていましたが、これも一瞬のキレを求める分、メンタル的なコントロールが大切ですよね。そのスタイルはどこから来たのでしょうか?

野村 実は特に技の「美しさ」というものを追求していたわけではないんです。もともと自分が子どもの頃に学んだ柔道を通して「どのスタイルだったら自分が世界で勝てるか」ということを考えた結果だったんです。

室屋 あくまでも「世界で勝つ」ことを追求した結果だと。

野村 そうです。柔道は日本で生まれた武道であり、時に「正しい柔道」という表現もされます。でも、相手としっかり組んで一本を狙いに行く柔道以外が柔道じゃないかというと、そうではない。世界的なスポーツになった以上、ルールの中で戦うしかないんです。だから真正面から組む柔道も柔道だし、相手と組み合わずに技をかけて、変則的に戦うのも柔道なんです。だとすると美しい柔道をしても、世界の舞台で戦って負ければ“敗者”になってしまう。やはり世界の舞台で自分の柔道を貫いた上で、結果を出してこそチャンピオンだと思ったんです。そうして自分が一番世界で勝てる柔道は何なのかと考えた時に、自分の長所が相手を一発で仕留めるキレだったんですね。だから、背負い投げという、その技を磨き続けた。それだけなんですよ。

室屋 ひとつの技をずっと磨き続けたからこその“必殺技”なんですね。自分の場合は機材があるんですけど、機能美という言葉のとおり、結局、勝とうとするとすべてのものがシンプルになってくるんです。いろんな手を尽くしていろんなことをやるんですけど、結局は単純になってくる。そうすると、野村さんの言う必殺技みたいなものが欲しくなってくる。柔道とか体操の映像を見ていると、みんな何かしら必殺技を作って世界を獲りに行きますよね。だから僕も毎年、ひとつは新しい技術や、新しい技を作ろうと思って色々研究を重ねています。

野村 柔道や体操など、全然違う分野の種目からヒントを得ることもあるんですね。

室屋 そうですね。飛行機だけやっていても世界が狭くなるので。車メーカーの技術者と話してみたり、全然違う研究をしてみたりすると、思わぬ発見があったりするんです。

 前編で2人のアスリートが語ったのは、一件すると全くつながりのなさそうな両競技に共通するポイントと、心の持ち方の重要性だ。

 後編(12月公開予定)では、世界の頂点に立った両人だけが知る重圧と、今後の後進育成論についても語ります。

今回対談の会場となった「LEXUS MEETS...」は、東京ミッドタウン日比谷にあるブティック、カフェ、車両展示・試乗が一体となった、体験型施設です。LEXUSのあらたなライフスタイルを体感できます。

室屋選手の「挑戦」を応援するLEXUSの特設サイトでは、LEXUS車とコラボしたスペシャルフライトMOVIEや、室屋選手の対談記事を公開中。

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