Sports Graphic Number WebBACK NUMBER

<特別対談 前編>
室屋義秀(パイロット)×野村忠宏(柔道家)
「勝つには技術を体に“覚えこませる”んです」 

text by

別府響(文藝春秋)

別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu

PROFILE

photograph byTadashi Shirasawa

posted2019/11/22 11:00

<特別対談 前編>室屋義秀(パイロット)×野村忠宏(柔道家)「勝つには技術を体に“覚えこませる”んです」<Number Web> photograph by Tadashi Shirasawa

エアレースのピークは35~40歳くらい。

野村 操縦する立場だと、まずは機械と一体になってそれを操る技術が必要になりますよね。それプラス、そういうすさまじいGに耐える身体作りも要る。やっぱり普段鍛えていたとしても、それだけ過酷な環境だと、ふっと意識が飛びそうになる瞬間ってどうしてもあると思うんです。そういう時でも、必死に意識を保って機体を絶妙にコントロールする。しかも、それが0コンマ何秒の世界じゃないですか。極限状態で生死をかけた熱い勝負をしているというのは、カッコいいですよ。

室屋 そう言われるとカッコいい気がしてきました(笑)。技術の話で言うと、身体に“覚えこませる”ことが重要な気がします。例えば飛行中の旋回って1秒間に450度くらい回転するんです。レース中にはゲートを通過して行かないといけないんですけど、その時の傾きは、水平から±10度以内というのが決まっている。なのでその許容範囲に居るのは100分の3~4秒しかない。その一瞬で機体を止めなければいけないので、目で見て操作してたら間に合わないんですよね。だから、その動きを体に覚えこませる。その上で、それが競技の時にできるかどうかが、自分の緊張状態とか、いろんな状況によって変わってくるというのが実際のところです。

野村 それは柔道でも似ていますね。柔道では5分間の試合で組み合う瞬間、もっと言えば自分のいい形で組める瞬間って本当に少ないんですよ。その数少ないチャンスの中で、相手の動きを感じつつ「よし、今だ。相手を投げられる」と思ってから技に入ったんじゃ、もう遅いんですよね。「よし、今だ!」と感じた瞬間に、身体に染み込んだ技術で瞬間的に技が出ないとダメ。頭で「こうしなきゃ」じゃなくて、その瞬間に染み込んだ技術が“反応”として出てくるかどうか。そういうところは一緒なんですね。

室屋 みんな訓練は積んでいるし、トレーニングも突き詰めた人が五輪や世界大会に出てくると思うんです。だから僕らもそうですけど、技術的には実はそんなに差はないんですよね。その中での勝ち負けって、その時の精神状態だったり、自分の力を瞬間的にどれだけ出せるかで決まる気がしています。

野村 精神面と肉体面のバランスは非常に重要ですよね。柔道で言えば競技のピークは25~26歳と言われています。相手と組み合って激しい争いをするので、フィジカル的なピークは結構、早いんです。20代中盤という年齢は若さもあって、でもそれなりに経験も積めている。そういう年なんです。一方で、先ほど室屋さんにお聞きしたら、エアレースだと40歳くらいが一番良いんだそうですね。

室屋 そうですね、35~40歳くらいが一番ですかね。われわれは飛行機に乗るのにライセンスが必要で、そこから訓練になるので。やっぱりどの競技も最低10年はやらないとモノにならないと思うので、30歳を越えたくらいでやっと一線に出られる。そこから世界中の大会で経験を積み重ねて、35歳、40歳というところで世界のトップに手が届く、という感じになっていると思います。

【次ページ】 ずっと磨き続けたからこその“必殺技”。

BACK 1 2 3 NEXT

ページトップ