ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
積極策だけを選ぶ時代には戻れない。
松山英樹、今季未勝利も微かな光。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2019/08/29 07:00
勝利こそ挙げられなかったが、シーズンのポイントランクはキャリアで2番目となる9位で終えた松山英樹。来季の躍進に期待したい。
メジャー制覇にもっとも近づいた試合。
打てない、狙えないと思う理由を「いろいろ……経験しているからじゃないですかね」と説明した。恐怖心という言葉こそ使わなかったが、成功体験に満ち満ちて邁進した時期には別れを告げている。勢いに身を任せたあの頃とは違う。失敗が招く惨事も、勝負の非情さも数多く味わった。そこから弱気になる自分も知った。
松山に言わせれば「プロになる前から(いずれ)そうなるとは思っていた」そうだ。
「でも、実際にそう考え始めて、それがしんどいなと思いはじめたのは、最近。“一昨年、勝てなかった”。そのあたり……からじゃないですかね」
大きなきっかけになったのは、前述の2年前、ブリヂストンインビテーショナルで5勝目を挙げた翌週にある。2017年全米プロゴルフ選手権は、まさにメジャー制覇にもっとも近づいた瞬間だった。首位で迎えたサンデーバックナインに、同じ組でプレーしていたジャスティン・トーマスに逆転され涙した。
数あるうちの敗戦でも一番のハイライトである。
恐怖心に抗う技術と選択肢。
PGAツアーは今季、つい先日まで大学生だった、プロ転向して間もない選手も多く活躍したシーズンだった。期待の若手としてここ数年ツアーを席巻してきたトーマスやジョーダン・スピース、そして松山らは中堅世代に足を踏み入れつつある。
「大変です。怖さを知らずにやるほうが、よっぽどラクです」と、昔を思い返して言う。
そうだとしたら、失敗を繰り返してきた世代が若さに対抗できる術はないのか。悲観的な言葉を並べたが、松山はその答えにたどり着きつつもある。
再び5年前のスーパーショットのシーンを振り返る。「あの時はただ追い込まれて、あのショットは仕方がなかった。行く(2オンを狙う)しか選択肢がなかったんです」と明かした。
「ウェッジの調子も悪くて、(フェアウェイに)刻んでバーディを獲れるとは思えなかった。いろんな選択肢を消して、残ったのがアレしかなかった。でも……今なら、別の選択肢もあるかもしれない」
積極策だけをチョイスした時代には戻れない。ただ、恐怖心に抗うだけの技術的な鍛錬を重ねてきた自負もある。
「(怖さを)知らない方がいいとは、必ずしも言えない。いまは選択肢も増えた。そりゃそうでしょう」