ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
積極策だけを選ぶ時代には戻れない。
松山英樹、今季未勝利も微かな光。
posted2019/08/29 07:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Yoichi Katsuragawa
積めば積むほど邪魔になるなら、経験などすべきでないのかもしれない。失敗の連続が次の一歩を踏み出すことすらも躊躇させる。恐怖心に目もくれず、ただ光で顔を照らして歩くことができたらどんなにスマートだろう。
怖いもの知らずでいられた頃を羨むばかりの自分にハッとする。絶望のままそこに立ち尽くすか、元来た道を引き返すか。あるいは――。
松山英樹が優勝から遠ざかって丸2年が経った。
毎年秋に開幕し、夏場にシーズンを終えるPGAツアー。2017年8月、WGCブリヂストンインビテーショナルで最終日に61をマークして痛快にPGAツアー5勝目をさらったのを最後に、タイトルをつかめぬまま2度目の夏が終わった。
松山に付きまとう“不振”の印象。
この間に残してきた成績も、彼が依然としてエリートであることを証明するものだと言っていい。
仮にも翌年のシード権が危ぶまれるようなことは一切なく、毎年変わらず高額ボーナスのかかるプレーオフシリーズに進んでいる。ポイントランキング上位30人で争うシーズン最終戦・アトランタでのツアー選手権進出というハードルを今季もクリアした。
ここ6年以上連続で最終戦に進出しているのは3人だけ。さらにツアーメンバーになった初年度から継続している選手は、世界に松山をおいて他にいない。
それでもなお、不振の印象が付きまとうのは、ただ1勝に手が届かずにいるから。
ゴルフトーナメントは最大150人前後の出場選手のうち勝つのはひとりだけという確率から、“たまたま白星が転がってくることはない”という見方もできる。ただし、この2年に関してはそんな巡り合わせだけでは処理できない。松山の内面には悲しいかな、確かな変化がある。