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積極策だけを選ぶ時代には戻れない。
松山英樹、今季未勝利も微かな光。
 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byYoichi Katsuragawa

posted2019/08/29 07:00

積極策だけを選ぶ時代には戻れない。松山英樹、今季未勝利も微かな光。<Number Web> photograph by Yoichi Katsuragawa

勝利こそ挙げられなかったが、シーズンのポイントランクはキャリアで2番目となる9位で終えた松山英樹。来季の躍進に期待したい。

2014年と似ていたプレーオフ第2戦。

「あれはもう、いまのオレには打てない」

 フェアウェイを歩きながら、そうこぼしたのは8月の半ば、シカゴでのBMW選手権に備えた練習日のことだった。

 プレーオフ第2戦にあたるこの試合は、出場権を持つ70人が、前述の最終戦進出をかけて争う。松山はポイントランク33位で大会を迎えており、突破のためには是が非でも好成績が必要。ランク31位以下に終われば、そこでただちにシーズンが終了した。

 過去のシーズンで似た状況があった。

 米国で初勝利を挙げたツアー本格参戦初年度の2014年は、もちろんこのスリリングなプレーオフシリーズも初体験。ランキング30位という当落線上で、同じBMW選手権(同年はプレーオフ第3戦)を迎えていた。

 当時22歳。最終日に運命を左右する場面が訪れた。70ホール目を終え、「ボギーを打ったら終わり。残り2ホールで、どちらかでバーディを獲らなければ」というシチュエーション。迎えた17番ホールはグリーンの外周を水に囲まれているパー5。2オンに成功すればチャンスが一気に広がるところで、松山は第1打を右サイドのバンカーに入れた。

「いまは無理。あれは打てない」

 クリークの手前のフェアウェイに刻んで、3打目勝負――多くの人がそう思ったとき、彼は228ヤード先のピンをめがけて4番アイアンを振り抜いた。脳裏を過るリスクを上回る好奇心。みずみずしい一打は見事ピン手前に到達し喝采を呼んだ。2パットでバーディ。2008年の今田竜二以来、日本人としては6年ぶりにアトランタへの扉をこじ開けた。

 あのスーパーショットがなければ、現在に続く連続出場も始まらなかった。

 27歳になった松山は「いまは無理。あれは打てない」とやはり言う。

「“狙う”という選択肢すら生まれないかもしれない。実際にその場に行ったらわからないけれど……普通に考えたら打たない」

 5年の歳月はどれほど人の内面を変えるのか。過ごす時間が濃密であれば余計にそうなのだろうか。

【次ページ】 メジャー制覇にもっとも近づいた試合。

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松山英樹

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