ラグビーPRESSBACK NUMBER
岩出流「脱体育会系」で培う人間力。
帝京ラグビーが根付く教え子のW杯。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/08/21 11:50
タイトル奪回へ向けて歩みを進める帝京大ラグビー部・岩出雅之監督。教え子たちのW杯は「ファン目線で応援」と笑顔を見せた。
岩出が考えるリーダーシップ。
岩出の言葉に、OBたちの姿が重なる。ラグビーという競技がチームメイトの支え合いによって成り立つものだとしても、彼らは組織への帰属意識を感じさせる。目標達成を前提とした自己犠牲の精神も漲っている。
「彼らも悩むことはあるでしょうし、苦しいこともあるでしょう。それが、人間を成長させてくれる。自分の覚悟や目標に対するエネルギーで悩みや苦しみを淘汰していくというか、そういう精神的なコントロールをうまく持ち合わせて成長してほしいなと。それは学生も、OBも同じです。そうじゃないと、新しい環境へ飛び出したときに、現状維持なり現状の最大化はできても、進化はできないんじゃないかと思うんです。
慣れない環境でまた悩み、苦しみ、経験不足も感じるでしょうが、その瞬間というのはクリエイティブな人生を楽しめるかどうかの境目です。挑戦心のある若者の姿は本人だけにとどまらず、周囲に好影響をもたらします。まさにそれが、リーダーシップになってくると思いますし」
「台本を読むだけでは観客は感動しない」
日本代表の精神性に、帝京大OBは間違いなく影響を及ぼしている。出身校別で最大勢力になっていることだけでなく、1人ひとりが胸に宿すしなやかで逞しい忠誠心が、日本代表のメンタルに芯を通している。
岩出は顔の前で左手を振る。それはちょっと褒め過ぎですよ、ということだろうか。「まあでも」と言って、机の上で手を組んだ。
「そういう言葉に対して驕らずに、ラグビー選手の魅力を感じさせる姿を見せてほしいと思います。どんな競技でもそうだと思いますが、ラグビーはとくに相手に向かっていくエネルギーが、魂がないと成立しません。役者さんだって、台本を読むだけでは観客は感動しない。その人独自の魂を持って演じないと、お客さんには伝わらないでしょう。
海外の試合はテレビでしか見られない人が大多数でしょうが、今回は目の前でたくさんの人が見てくれる。日本人独特の感動もそこにあると思うし、プレーの感動だけではなく姿の感動もあると思う。みんなが感動する大会に、自分たちもやり切ったと思える大会に、してほしいですね」
大学選手権10連覇を阻まれた昨シーズンを受けて、今シーズンの帝京大はタイトル奪回へ挑む。「敗戦からたくさんのことを学ばせてもらいました」と話す岩出も、新たな闘争心を燃やす。
関東大学ラグビー対抗戦グループは、8月末に開幕する。W杯期間中は中断されるが、その代わりに大学ジュニア選手権が開催される。いつもどおりに学生たちと向き合いながら、岩出はOBたちの奮闘を気にかけていくのだろう。