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岩出流「脱体育会系」で培う人間力。
帝京ラグビーが根付く教え子のW杯。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/08/21 11:50
タイトル奪回へ向けて歩みを進める帝京大ラグビー部・岩出雅之監督。教え子たちのW杯は「ファン目線で応援」と笑顔を見せた。
人間力を鍛えた「脱体育会系」。
岩出が統べる帝京大学は、2009年から大学選手権を9連覇してきた。日本代表の最大勢力となるのも必然的だが、そもそも帝京大OBは人間力が高い。
33歳の堀江は日本代表のキャプテンを務めただけでなく、スーパーラグビーに参戦したサンウルブズで初代キャプテンを任された。9月4日に27歳になる流は、所属するサントリーで加入2年目からキャプテンとなり、ジェイミー・ジョセフ率いる現日本代表でもリーダー格のひとりだ。また、日本代表の底上げを促している25歳の姫野和樹は、トヨタ入団1年目にキャプテンに指名された。
岩出の指導は「脱体育会系」と言われる。雑用に率先して動く上級生を見て、下級生はラグビー部員としての自覚に目覚める。組織への忠誠心が、横方向にも縦方向にもつながっていく。チーム内の風通しが抜群にいいのだ。
岩出は「失敗もしてきていまがありますけどね」と、遠慮がちに切り出す。
「脱体育会系とか先輩が雑務をするとかがすべてではなくて、そういう先輩の姿を見て後輩は感じるところがあるだろうし、いまの学生は昔のようにタテの関係でやると潰れちゃう。潰さないためにも最初は余裕を持たせて、自己容認させる。自分のことを知る時間を下級生のうちに持たせながら、少しずつ負担を増やしていくというかね。目の前にいる上級生にいい見本を見せてもらうのが、下級生には一番分かりやすいので」
大切な自分を変えていく力。
岩出自身は学生にどのようにアプローチしているのだろう。61歳の指導者は「そう、どうやって関わるのかですよね」と自身に問いかけるように呟く。
「誰かに変われと言われても、人はなかなか変われません。無理を強いるほど、ゴムと一緒で伸ばしても戻っちゃう。一番大切なのは自分で自分を変えていく力、努力し続ける力じゃないでしょうか。ダブルゴールで4年間のゴールと未来のゴールを重ねながら、スポーツという環境のなかで勝負を大きな柱にしつつ、様々な人間同士の絡み合いで学生たちが可能性を自分で引き出していく。
面倒臭いことも楽しめて、自分のためからスタートして仲間のため、人のために動けるような『徳』を持ってくれたら嬉しい。楽しさとか自由の裏側にある責任、規律、ルールといったものは縛りではなく、自分たちが成長するためのツールです。精神的に深みのある人間に向かっていこう、そのためのツールとして生かそうと考えて行動してくれたら、とても魅力のある人間になっていくと思います」