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ダルビッシュならどう見る?
履正社に敗れた津田学園の投手采配。
posted2019/08/13 16:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
KYODO NEWS
果たして、これは美談なのか。
敗者の壇上に上がったエースが、それまで我慢していた感情を思わず溢れさせたのを見て、ふとそう思った。
「降井が粘ってくれて、最後の最後に監督がマウンドに戻してくれた。高校人生で一番幸せなマウンドだった」
ドラフト候補の1人として注目を浴びた津田学園(三重)のエース、前佑囲斗が散った。
1回戦で大会タイ記録となる5本塁打をマークした履正社(大阪)打線に集中打を浴びて3回6失点。4回からは降井隼斗にマウンドを譲って、一時、一塁の守備に就いていたのだが、8回裏の履正社の攻撃が2死となったところで、再びマウンドに戻ることを指揮官の佐川竜朗監督から命じられたのだ。
それまでの4回3分の2イニングを降井が1失点に抑えていたにもかかわらず、エースに対する温情とも言える采配に、当然のように前は感謝したわけである。
「エースと心中」主義が招く敗北。
「(たとえ劣勢にあっても)8、9回で奇跡が起きることがある。勢いをつけるために、前をマウンドに戻した」
津田学園の指揮官・佐川監督の弁である。
それまで好投していた降井の功績よりも、エースの右腕に期待を寄せる事でチームに勢いをつける――そう考えて、一度は休ませたエースをマウンドへ戻したわけだが、この起用を美談にしてしまうことに少し違和感を覚えた。
「エースと心中」主義。
甲子園を長く取材していると、こういう雰囲気を感じることが度々ある。試合にどれだけ負けていても、エースをマウンドに立たせ続けることでファイティングポーズを見せようとする。エースの身体的な疲労より、チーム全体の精神的な部分に訴えかけることで、なんとか不利な局面を打開しようという狙いがあるわけだ。
少々皮肉めいたことを書いたのは、そうした精神的な部分に訴えかける事が必要無いくらい、この日の津田学園の2番手・降井が好投を見せた……と筆者には思えたからだ。