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メダルが一番遠いはずの種目で金。
なぜ瀬戸大也は前評判を覆せるか?
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byHiroyuki Nakamura
posted2019/07/26 18:45
男子200m個人メドレーで今大会日本勢初の金メダルを獲得した瀬戸大也。キャプテンとしての風格も出てきた。
「勝てる」という確信を得た。
もうひとつ、海外選手は準決勝で一度全力に近いタイムで泳ぐ傾向が強い。事実、準決勝をトップで通過したジェレミー・デプランシュ(スイス)は自己ベストを更新していたが、そのタイムは1分56秒73である。
ほかの選手たちのタイムは、ほぼ1分57秒台だったのである。これでもうひとつ、周囲の選手たちの調子は良くないことが確定した。
このふたつの確定要素を軸に、導き出した答えは、「勝てる」。
「ウォーミングアップの時点で、もう負ける気がしませんでした。自分のレースをすれば、勝てる、と」
確信を得た瀬戸に、迷いはなかった。前半から一気に飛び出して背泳ぎのスプリットでトップタイムを奪うと、平泳ぎで身体半分ほどのリードを奪う。最後の自由形は我慢比べだったが、ここでも瀬戸の運の良さが垣間見えた。
瀬戸は3コース。優勝争いをしていたデプランシュは4コース。そして瀬戸とデプランシュは右呼吸で自由形を泳ぐ。つまり、瀬戸はデプランシュを呼吸時に視野に入れながら競り合いを泳ぐことができ、反対にデプランシュは瀬戸を見ることができなかった。
ラストの競り合いの苦しい場面で、相手が見えるか見えないかの差は大きい。負けたくない気持ちが沸き起こり、どれだけ苦しくても耐え抜く気力があふれ出す。特に瀬戸のようなアドレナリンで泳ぐタイプには絶大の効果があっただろう。
400m個人メドレーで王座奪還を。
「もう、完璧でした」
結果、瀬戸は自己ベストをマークして金メダルを獲得した。瀬戸の優勝タイムを上回る選手は、実はまだ3人残っていた。本当に、瀬戸が勝つ確率は、極めて低かったのだ。しかし、それはゼロではなかった。そんなか細いチャンスを確実に嗅ぎわけ、そのチャンスを逃すことなく掴みきった瀬戸の嗅覚には恐れ入る。
今大会、残すは最終日の400m個人メドレー。2017年大会で瀬戸から王座を奪い取ったカリシュは、200mで自己ベストから1秒以上遅いタイムでしか泳げていない。
ここでも瀬戸の鋭い、勝つチャンスをかぎ分ける嗅覚が反応するのかどうか。その結果が分かるのは、もうすぐだ。