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メダルが一番遠いはずの種目で金。
なぜ瀬戸大也は前評判を覆せるか?
posted2019/07/26 18:45
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
Hiroyuki Nakamura
この男の勝負への嗅覚はまるで獣のようだ。
FINA世界選手権(韓国・光州)の大会13日目、男子200mバタフライで銀メダルを獲得し、その勢いで臨んだ男子200m個人メドレーの決勝。
日本代表のキャプテンである瀬戸大也(ANA/JSS毛呂山)は“最もメダルから遠い”と思われていたこの種目で、1分56秒14の自己ベストをマークして金メダルに輝いた。
「この種目が獲れたことは、ご褒美だと思います。去年、今年と苦しい練習を本当に頑張ってきましたから。でも実は、金メダルを狙っていました。準決勝を見たとき、みんな調子はそんなに良くなさそうでしたし、獲れるときに獲っておこうと。
2013年に400m個人メドレーで金メダルを獲ったときと同じようなフィーリングがあって。でもそれは隠していました。自分、調子が良いときは隠すタイプみたいなんです」
低い前評判を覆し続けてきた。
思い返せば、2013年のときもそうだった。初めて出場した世界選手権、最終日の400m個人メドレー。当時絶好調だった萩野公介(ブリヂストン)が勝つだろうという予想の中で本番を迎えたが、金メダルをかっさらったのは瀬戸だった。
このときの優勝タイムは、4分08秒69。当時の日本記録は萩野の4分07秒61。3位だったティアゴ・ペレイラ(ブラジル)も当時の瀬戸よりも速い自己ベストタイムを保持しており、瀬戸が勝つためには、自己ベストを更新することが最低条件だった。
つまり3、4番手の前評判でしかなかったなかで、きっちりとベストタイムを叩き出しつつ、競り合いを制したのである。
連覇を成し遂げた2015年の世界選手権でもそうだ。
安定して4分07秒台で泳ぐ萩野が骨折で世界選手権を回避。さらにダビド・ベルラスト(ハンガリー)やチェイス・カリシュ(アメリカ)、タイラー・クレアリー(アメリカ)といった海外有力選手たちの泳ぎもピリッとせず、思った以上に決勝進出ラインが低かった。
そこで瀬戸がまたしても4分08秒50というタイムで、なおかつ200mのスプリットタイム以外はすべてトップという、ほぼパーフェクトなレースで金メダルを獲得した。