One story of the fieldBACK NUMBER
佐々木朗希のいない決勝戦。
選手たちは納得していたのか。
posted2019/07/26 11:55
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Asami Enomoto
大差のついた最終回、仲間たちがみんな立ち上がり、身を乗り出して声をからしている中で、佐々木朗希はひとりベンチ奥に腰を下ろしたままじっとグラウンドを見つめていた。胸に何が去来していたのか。エースであり、4番打者の彼は甲子園をかけた決勝戦という舞台に立つことのないまま、最後の夏を終えた。
ゲーム直後、すぐに敗れた大船渡ベンチ前で国保陽平監督がメディアに囲まれた。異例の光景である。矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
なぜ、佐々木を投げさせなかったのか。
「故障を防ぐためです。連投で、暑いこともあって。投げたら壊れる、投げても壊れないというのは未来なので知ることはできないんですけど、勝てば甲子園という素晴らしい舞台が待っているのはわかっていたんですけど、決勝という重圧のかかる場面で、3年間の中で一番壊れる可能性が高いのかなと思いました。投げなさいと言ったら投げたと思うのですが、私には決断できませんでした」
前日の準決勝・一関工戦で9回、129球を投げた佐々木にこの日の朝、登板させないつもりだと伝えた。すると笑顔で「わかりました」と返してきたという。
そして、大船渡は6回までに9点を奪われ、2-12という大差で敗れた。
甲子園至上主義に別れを告げる決断。
国保監督への質問は続く。
佐々木抜きで勝つとすればどういうイメージだったのか。
「30-29というような。(佐々木の笑顔も)そこに期待していた笑顔だったのかなと、可能性はあるよ、あるぞっていう」
30点という数字が現実的でないことは誰よりも国保監督がわかっているだろう。今大会の第1シード、花巻東を相手に佐々木が投げなければ勝機が薄いこともわかっていただろう。もし言葉通りに点の取り合いにするつもりならチームで最も長打力のある佐々木を外野や一塁で起用しても良かったはずだ。ただ、それも「スローイングの時、100%で投げてしまうリスクがある」という理由でしなかった。
前日の準決勝前に医療スタッフに右肘の違和感を訴えていたという情報もあるが、この時はその上で129球の完投をさせた。そして決勝の朝は筋肉が張ってはいたが、投げられる状態にはあったという。
つまり、甲子園に出る確率を下げてでも、ひとつの才能を守ることを選んだ。目の前の一瞬よりも未来を選んだ。さらば甲子園至上主義。そういう決断である。