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コパで振り返る王国ブラジルの現状。
代表の足を引っ張る過激なクラブ愛。
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph byMasaki Shimozono
posted2019/07/18 17:30
ブラジルの優勝で幕を閉じたコパ・アメリカ。だが、開幕戦ではブーイングも起きるなど、逆風も吹き荒れた。
ブラジルが必ずしも正しいわけではない。
日本では「サッカー王国」として語られることが多いブラジルだが、彼の地でブラジル人が自称するのは「パイース・ド・フッテボウ(サッカーの国)」。確かにサポーターもメディアも一言居士であるのは、事実ではあるが、その方向性は必ずしも正しいとは限らないのである。
たとえば、日本でもワールドカップのたびに繰り返される「戦犯探し」だ。ロシア大会のベルギー戦で失点に絡んだフェルナンジーニョは、マンチェスター・シティでも欠かせない存在ではあるがブラジル代表では、しばしばメディアやサポーターから攻撃の的になった。
献身的な守備やスペースメイクなど前線では欠かせない存在であるフィルミーノに関しても、古き良き時代の「背番号9」への幻想があるブラジルだけに、大会中にはグローボ局の解説者の元ブラジル代表、カーザグランデ氏がフィルミーノを低評価。世論をミスリードしていた感は否めない。
最大の犠牲者はカナリア軍団の指揮官。
目先の結果に一喜一憂しがちなサッカー王国で、最大の犠牲者は各クラブの監督だ。ペルーを36年ぶりのワールドカップ出場を果たし、今回のコパ・アメリカでも44年ぶりの決勝進出に導いたリカルド・ガレカ監督も、そんな1人である。アルゼンチン屈指の名将として2014年にパルメイラスの監督に就任するも、わずか3カ月で解任の憂き目にあっている。
そんなブラジルで、大統領以上に厳しい視線に取り囲まれるのがカナリア軍団の指揮官だ。
ペルーとの決勝戦直前にも、ブラジルきっての大御所ジャーナリスト、ジュカ・クフォウリ氏が、大会後にチッチ監督が退任する可能性を指摘。決勝前日の記者会見では「悪意のある情報か、真実か」と問われた指揮官は「2022年のワールドカップ後まで契約している」とことば少なに否定したが、「チッチ降ろし」の風潮は大会前から、ずっと吹き荒れていたのも事実だったのだ。