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コパで振り返る王国ブラジルの現状。
代表の足を引っ張る過激なクラブ愛。
posted2019/07/18 17:30
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph by
Masaki Shimozono
「カンペオン・ヴォウトウ(王者が戻ってきた)」
カナリアイエローに染まった“聖地”マラカナンスタジアムに響き渡ったサポーターの歓喜。自国開催での優勝を義務付けられていたブラジルの大団円で終わったコパ・アメリカは、ピッチ外でもブラジルサッカー界が抱える光と影を見せつけた。
ブラジルでもサポーターは「カミーザ・ドーゼ(背番号12)」と称されることは少なくないが、サッカー王国の民は基本的に、サッカーを楽しむためにスタジアムに足を運ぶ。
そんな彼らのスタンスがはっきりと見えたのがサンパウロで行われたアルゼンチン対チリの3位決定戦だった。
チリのビダルが「3位決定戦は何の意味も持たない」と公言したように形の上では消化試合。にも関わらず、コリンチャンスがホームとするアレーナ・コリンチャンスには4万1573人の観客が足を運んだ。
観客の大半はブラジル人。彼らのお目当てはアルゼンチン代表の背番号10だった。37分、接触プレーを巡ってヒートアップしたメッシとメデルがまさかの一発退場。その瞬間、場内からは「ヘイ、審判。糞食らえ」という定番の大ブーイングが響き渡ったのだ。
場内にはメッシを見る機会を奪われた失望が明らかに満ちていた。
アルゼンチン代表を追うアルゼンチン人記者のフェデリコ・ウリサ氏は「ブラジルとアルゼンチンのライバル関係を考えれば、ちょっと驚きのシーンだったね。ただ、今大会ブラジル人は、常にメッシに対して親愛の気持ちを見せていた」とこの光景を振り返った。
メッシはライバル関係を超越した存在。
一方で、ブラジル人記者の見解はこうだ。
「3位決定戦でなく、メッシを彼らは見にきていた。メッシをブラジルで見る機会なんて、そうあるわけじゃないし、メッシは両国のライバル関係を超越した選手なんだよ。それにメッシはマラドーナと違って、ブラジルを挑発はしないからね」と話すのはフェリペ・ジット・デ・カンポス氏である。
ブラジルがアルゼンチンを下した準決勝のミネイロンスタジアムには、ブラジル代表とアルゼンチン代表のユニフォームを半分ずつ縫い合わせたメッシファンのブラジル人サポーターも登場。メッシ人気は今大会でも際立っていたが、だからと言って、ブラジル人がアルゼンチン代表を応援するはずはない。
メッシがピッチに立っていた時間帯でも、アルゼンチン代表には猛然とブーイングを送り、チリを声援。その切り替えの早さは、ブラジル人ならではの特徴だ。