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マツダスタジアム設計者の遊び心。
新幹線、遊環構造、ただ見エリア……。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2019/07/17 08:00
勝っても負けても、マツダスタジアムは常に満員だ。その裏には、スタジアム自体の力もあるのだ。
「日本の球場は窮屈ですよねぇ」
東京工業大学名誉教授の仙田氏は、日本建築学会会長も務め、国際教養大学の素晴らしい「中嶋記念図書館」、スポーツ関係では兵庫県の「但馬ドーム」、ちょっとひねったところでは、箱根駅伝の小田原中継所がある「鈴廣蒲鉾本社ビル」などの作品がある。
仙田氏は、子どもの成育と建築の関係について研究を重ねてきたが、その本質は「遊び」にある。
「スポーツの原点は、遊びですよね。日本で生きるということは、災害の多い国で生きることを意味します。子どもたちには困難を乗り越える力を遊びの中で養ってほしいと思い、これまでの作品にそうしたアイデアを盛り込んできたんです」
仙田氏の発想の根幹を成すのは、「遊環構造」。いろいろなところをグルグル回りながら遊べる空間だ。
言い換えれば、「流動性が担保された空間」というべきか。そうした発想を球場に移し替えたわけである。
「日本の球場は席に縛りつけられています。席を中心とした発想なんですよ。それじゃ、窮屈ですよねえ。席も広いわけではありませんし(笑)。
私は人が集まる公共の場所は閉鎖的ではなく、開かれた空間であるべきだと思っています。ですから、球場に足を運んでいただいたら、自由に動き回ることができて楽しい。だからこそ、また遊びに行こうと思える空間にしたかったんです」
動き回ることを実現させたのが、日本で唯一のメインコンコースだ。内野自由席1700円で楽しめるのは、このコンコースがあるからなのだ。
広島にとって球場の意義は大きい。
そしてまた、仙田氏の哲学を感じたのは、仙田氏が「街」とのつながりを意識していることだった。
「広島のみなさんが愛した以前の市民球場は、平和記念公園から見て原爆ドームの先に球場がありました。球場は、広島のみなさんにとって、とても意義深いものなんです。だからこそ、マツダスタジアムの建設も、当初は市民球場跡に建て替えることが望まれていました。しかし経費の面でも、新しい街とのつながりを作る意味でも、最終的に現在の場所になったわけです」
そこに、様々な仕掛けがあった。