クライマーズ・アングルBACK NUMBER
「山岳遭難」は25年間で3倍以上に。
報道では分からない数字の裏事情。
text by
森山憲一Kenichi Moriyama
photograph byKenichi Moriyama
posted2019/07/15 09:00
山岳遭難の捜索・救助で「切り札」的な存在のヘリコプター。出動頻度が増加している
ここ30年の登山人口はほぼ横ばい。
では登山人口自体が増えているのか。登山をする人が増えれば、それに比例して事故も増えるのは道理。しかし、「レジャー白書」によれば、日本の登山人口は2009年に山ガールブームで瞬間風速的に1000万人を超えたのを除けば、ここ30年ほど600万人~900万人の間でほぼ横ばいとなっている。登山をする人の数は増えていないのに、遭難件数だけが3倍以上に増え続けているのである。
これはいったいどういうことなのか。
唐突に聞こえるかもしれないが、山岳遭難急増の理由は携帯電話にあると私は考えている。
総務省の統計によれば、携帯電話の普及率が増え始めるのは1996年から。この年に1000万を超えた契約回線数は、2000年に5000万、2007年に1億を超え、現在では普及率は100%を超えている。
以前は連絡手段がほぼなかった。
一方、山岳遭難件数が目立って増え始めるのは1994年だ。それまでの30年ほど、遭難件数はずっと年間500~700件程度で推移していたのだが、94年に774件を記録。以降、右肩上がりに増え、2018年の2661件に至っている。
携帯電話の登場以前、山で事故を起こしたときの連絡手段はほぼないといってよかった。救助が必要なときは、仲間が近くの山小屋などに助けを求めるか、下の町まで走って下りるかしかなかった。ひとりで登っているときに事故を起こし、身動きができないようなケガを負ってしまったなら、他の登山者が偶然通りかかるのを待つしかなかった。
ところが今は、登山者のほとんどは携帯電話を持ち、さらに、山中での携帯電話の通話可能範囲も年々広がっている。警察や消防に電話すれば、早ければ1時間後には救助のヘリコプターがやってくる。25年前に比べれば圧倒的な進歩だ。