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<「2019世界柔道」直前インタビュー vol.6>
個性豊かな柔道家の挑戦。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/08/01 11:00
左から、男子100kg級・ウルフアロン(了徳寺大学職)、女子78kg超級・朝比奈沙羅(パーク24)、女子78kg級・濵田尚里(自衛隊体育学校)、女子52kg級・志々目愛(了徳寺大学職)。
一風変わった雰囲気の濵田尚里。
「変ですか? やっぱり? 変ですよね、そうなんです」
ニヒヒと照れたように笑う。受け答えの間がなんだか一拍ずれる。都合が悪いことになると急にこそこそ小声で話し出す。女子78kg級の濵田尚里は一風変わった雰囲気の持ち主である。
その歩みや柔道スタイルが“消極的な”選択によって導かれてきたこともトップアスリートとしては珍しいことかもしれない。
五輪や世界柔道に出場するような選手はたいてい学生時代から華々しい実績を残しているものだが、彼女の場合はそうではない。本格的に頭角を現したのは社会人になってから。しかも寝技を最大の武器としてきた。
寝技は鹿児島南高が重視していたため、その頃から地道に取り組み続けてきた。今では濵田の代名詞。さぞや寝技師らしい矜持があるかと思いきや、そうではなかった。
「立ち技と寝技のどっちで(ポイントを)取るとか、どっちにも全然こだわっているわけじゃないんです。試合でよく取れるのが寝技だったというだけで。みなさんみたいに投げられるなら投げたい」
そして小声で付け加えた。
「立ち技だったら投げられちゃうんで……。立ち技のレベルが低いんです」
大学で柔道は辞めるつもりだったが。
山梨学院大時代は目指していた日本一の夢も叶わず、全柔連の強化選手にも入れなかった。柔道は辞めるつもりだった。それがどうして。「あんまり言えないかもしれないです」と声が一層小さくなった。
「他に行くところがなかったっていうか……。自衛隊が声をかけてくれて、自分は全然強くなかったから行ってもどうかなという気持ちだったんですけど。特にやりたいこともないしっていう感じで」
そんな彼女だから昔から世界柔道や五輪の舞台を夢見ていたわけではない。
「子供の頃というか高校、大学ぐらい、ついこないだまで何も考えてなかった。でも実業団にまで入って、せっかくここまで続けているなら世界一を目指そうかなという気持ちになって」
サンボの世界選手権で優勝するなど着々と地力をつけ、2017年には出場した国際大会すべて寝技で一本勝ちを収めるまでになった。初出場だった昨年の世界柔道では決勝の反則勝以外はオール一本勝ちで金メダル。大学で柔道をやめようと思っていた選手が今や東京五輪を見据える存在である。
とはいえ彼女のペースは崩れない。
「去年は去年で1回終わって、また今年は代表が決まってここから1年頑張ろうと思ってます。次の試合までをまずどうするか。それが終わったらまた次の試合、と考えています」
やる気にはやるよりもそんな意気込みが濵田らしい。そしてまた彼女はニヒヒと笑った。