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引かないナダルが12度目の全仏制覇。
不調の前哨戦で下した重要な決断。
text by

秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2019/06/11 16:30

全仏優勝直後、クレーコートに大の字となったナダル。試行錯誤の末の栄冠だったことを象徴した一場面だった。
ティーム戦は昨年とは違う展開に。
ティームとの決勝は昨年と同じ顔合わせだったが、内容は、一方的に相手を叩いた前年とは正反対の、タイトなものとなった。
序盤のティームが素晴らしかった。常に全力、全身を使って強打する選手だが、とりわけこの決勝では序盤から飛ばした。これが最後まで持つのか、と懸念させるほど激しく動いた。昨年の決勝で力を出しきれなかったティームには、最初の1ポイントから全力で行くしかなかったのだ。
しかし、その全力疾走をナダルが止めた。第1セットはワンチャンスを生かし、激しく競り合った第2セットはティームに譲ったが、2度目の分岐点となった第3セット序盤の戦いを制すると、あとは一本道を走りきった。
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「第2セットのあと、プレーのレベルが落ちてしまった」とティームが悔やんだ。ポイントがほしくて無理な体勢から強打する場面も増え、にわかにショットの精度が落ちた。
彼にとっては4日連続の試合だった。ノバク・ジョコビッチとの準決勝は荒天による順延をはさんで2日がかりとなった。心身の疲労を抱えて決勝に臨むことになったのは気の毒だった。
積極的な位置取りが奏功した。
ナダルの戦術も奏功した。第一に積極的な位置どりだ。ナダルはこう振り返っている。
「後ろに下がりすぎないことが大事だった。彼のフォアハンドはパワフルだし、バックハンドと打ち合うのも簡単ではない。当たり出したらやっかいだ。下がらず、彼にコートを明け渡さないことが重要だった」
ナダルといえど、ティームのストロークは要警戒なのだ。そこで、ポジションを上げ、そうすることで必然的にネットに詰める機会も増えた。ネットプレーはほぼ完璧だった。ネットに出た機会は27回、そのうち23回をポイントに結びつけた。
ティームとのベースラインでの力比べを避ける戦術は、結果的に早いポイントの決着につながった。サーブから3本以内で決着したポイントのうち62%を、また4~8本で決着したポイントのうち61%をナダルが奪っていた。
9本以上のラリーになると得点率は互角。すなわち、粘り合いを避け、積極的にプレーしたナダルの作戦が、ティームのストローク力を上回った。