炎の一筆入魂BACK NUMBER
“武器がない”セットアッパー、
カープを支える一岡竜司の流儀。
posted2019/06/11 07:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
投手の分業制が確立され、“勝ちパターン”の重要性はより強くなってきた。ここ数年リーグを制してきた球団は、強固なリリーフ陣を擁してきた。
数人で試合を締める役割とともに、相手の反撃意欲を削ぎ落す役割も担う。各球団が据える勝利の方程式は多種多様。空振りを奪え、ファウルを取れる剛速球、切れ味鋭い勝負球、精密な制球力など、絶対的な武器を持つ選ばれし投手が任せられるポジションだろう。
セ・リーグの首位を走る広島で重要な役割を担う一岡竜司は投手としての武器を聞かれると、笑いながら言う。
「僕に武器はありません」
球速は150キロには満たない140キロ後半。持ち球であるカーブ、カットボール、フォークなどは切れ、制球は平均点以上も、飛び抜けた決め球を持っているわけではない。他球団の勝ちパターンの顔ぶれを見れば一見、個性が見えにくい。
それでも毎年、気づけばチームの勝ちパターンを任される立場にいる。
マウンド上でつぶやくセットアッパー。
今年は開幕から中崎翔太、ヘロニモ・フランスアにつなぐセットアッパーを任された。抑え中崎の不調から配置転換されると、左腕カイル・レグナルトとともに相手打者の左右、タイプによって7回、8回のいずれかを抑える役割を託されるようになった。
「いかに速く見せるか、を意識しています。なるべく100(の力)で腕を振らない。80くらいで振るイメージ。逆にカーブは90くらい。一歩引いて自分を見る。ここでカーブを投げたらどうなるかな、って」
自分が持っている力を最大限に発揮するための術を探る。投手と打者の対戦は、必ずしも強者が勝つわけではない。打者との駆け引きの選択肢を増やすため、クイック投法にも磨きをかけてきた。ホールド時間、左足を上げる長さ、腕の振りの強さ、球種……。さまざまな組み合わせで打者を抑えにかかる。
一岡がマウンド上でポツポツとつぶやくのは、客観視した自分との大事な確認作業なのだ。