炎の一筆入魂BACK NUMBER
“武器がない”セットアッパー、
カープを支える一岡竜司の流儀。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2019/06/11 07:00
4日西武戦で投ゴロを一塁にトスする一岡竜司。巨人から人的補償で加入し、セットアッパーとして充実の時を迎えている。
昭和の香り漂う九州男児。
「武器がない」からこそ、備え、考え、工夫しながら、最善の策を探る。そして、自分に厳しくなる。開幕から安定した投球を続けても、自己評価は辛口だ。
5月11日DeNA戦。7回の1イニングを3者凡退に切り、勝ちパターン3投手が絡んだ今季初の0封勝利にもかかわらず、試合後は開口一番、反省の弁が口をついた。
「今日みたいな投球していたら信頼を失う」
登板までの準備、先頭打者への入り、球の質、精度……。結果は無安打無四球無失点も、1球が命とりとなる立場にいる者として、危機感を胸に刻んだ。
地元では大瀬良大地、今村猛とともに“カピバラ3兄弟”といわれるなど親しみやすさが人気だが、中身は芯が通った男気ある九州男児だ。名将・鶴岡一人氏が残した「グラウンドには銭が落ちている」との名言を今も口にするなど、昭和の香りも感じさせる。
中継ぎ主将を務めた昨年、春季1次キャンプの最終日に手打ち役を務めた。選手会長會澤翼からの打診に「そりゃ、男ですから。逃げるわけにはいかないでしょう」と即答した。
5月24日巨人戦では中島宏之に頭部付近へ死球を与え、激昂された(一岡は危険球で退場処分)。一岡の精神的な影響を不安視する声も聞かれたが、そんな簡単に心が折れるわけがない。
「当ててはいけませんが、僕のような投手は内に投げないと抑えられない」
その目は力強く、前を向いていた。その日から6月9日ソフトバンク戦(10日現在)まで7試合連続無失点投球を続けている。
駆け引きを磨いた3年間。
「武器がない」からこそ、身につけなければいけない技術と精神力がある。プロ入りまで過ごした沖データコンピュータ教育学院での3年間が投手としての引き出しを増やしたのかもしれない。
専門学校の試合相手は、社会人チーム。チーム力だけでなく、個々の能力もレベルが違う。一岡1人で勝てるわけがない。
「1、2点差の負けならOK。引き分けならお祭りでしたよ。だって、引き分けたとき対戦相手は試合後にミーティングしているくらいですから」
打者のレベルだけでなく、味方守備のレベルも違う。打ち取っても味方のミスで失点することもあった。その中でいかに無失点、最少失点に抑えるか常に考えなければいけない環境にあったことが、18.44mでの駆け引きを磨いた。