オリンピックへの道BACK NUMBER
包丁を研いで集中力を高める31歳。
見延和靖のフェンシング愛が濃い。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2019/05/27 07:00
3月、5月に行われたグランプリ大会で連続優勝を飾った見延。6月のアジア選手権に向けて「ここで勝たなくてはいけない」と意気込んだ。
包丁を研いで遠征に臨んだことも。
以来、地力を蓄えていった。国際大会では、ときにフィジカルの差で押されることもあったが、徹底したトレーニングで鍛えて世界との差を埋めていった。
その一環としてユニークな練習にも取り組んだ。集中力を高めるため、包丁を研いで遠征に臨んだのである。その発想もまた、強くなりたいがためだった。
身長177cmに対し、リーチ197cmという、極めて恵まれた身体的特徴も持ち合わせている。そこに心身ともに磨きをかけ、シーズンを毎年重ねていく中で、駆け引きや戦術など、リオでは「足りない」と感じた経験も積んだ。創意工夫とともに、世界のトップを争うところまで向上してきた。
根底にあるのは、エペに対する愛情であり、第一人者としての誇りだ。
「自分が先頭に立って、フェンシングを引っ張っていきたいと思っています」
そこには、フェンシングそのものへの思いもある。自身の抱く誇りからだろうか、「いつか教科書に載りたい」、そんなことも口にする。
太田を契機にしたフェンシング躍進。
個々の努力も大きいが、北京五輪で太田雄貴が銀メダルを獲得して以降の体制にも触れておかなければならない。フェンシングというと、太田雄貴らの活躍で、日本ではフルーレの認知度が高い。また容易に越えられなかった海外の壁を破った功績として、太田の銀メダルは大きな意味を持つ。
各種目に海外から招いた指導者を置き、合宿を頻繁に行う強化策も、太田の活躍なくして始まらなかっただろう。
ただ本場のヨーロッパでは、エペの競技人口や人気が高いのもまた事実。見延の上げている成績もまた、世界の舞台で日本のフェンシングが戦えるようになったひとつの証でもある。
エペというフェンシングの花形種目で、大輪の花を咲かせることができるのか。
6月13日からはアジア選手権が始まる。世界ランキングが五輪代表への基準となるため、重要な大会の1つだ。
見延以外にも同じくエペの加納虹輝が2月のワールドカップで優勝を果たすなど、国内での競争も激しくなっている。
会場は千葉ポートアリーナ。日本でその真価を見せられるか。注目の大会となる。