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監督として“ジロ”に挑む水谷壮宏。
夢破れても、自転車に魅せられた人生。
posted2019/05/27 11:50
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Sonoko Tanaka
人懐こい笑顔を見せると、目尻にシワが寄る。
人生の半分以上を自転車競技の世界に身を置いてきた45歳の水谷壮宏は、いま幼い頃からの夢だったグランツールに挑んでいる。
憧れのレースでロードバイクにまたがることはできなかったが、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネの監督として世界三大自転車ロードレースのひとつジロ・デ・イタリアに参戦。日本人ライダーの初山翔が第3ステージ、第10ステージで鮮やかな「逃げ」を決めたときも、すぐ後ろを追いかけるチームカーのハンドルを握り、的確な指示を送った。
「監督として、この舞台に立てていることは光栄。こんなチャンスは滅多にない。ただ出場しただけで満足するつもりはない。やっぱり、成果を出さないと。全ステージを終えてから、自分が監督として、どこまでやれたのかを振り返りたい」
「準備が命」の自転車レース。
イタリアの観衆が熱狂するコースに立っても感慨はないという。むしろ、指揮官としての責任感をひしひしと感じていた。
レース前夜、当日の朝にはタブレットにコースマップを映し出し、一緒に指揮を執るマリオ・マンゾーニ監督とひざを突き合わせて作戦を練る。選手のコンディションに加え、ウェザーニュースのチェックも欠かさない。雨雲レーダー、風向き、風速、路面の状況なども徹底的に下調べする。
チーム内の会話は英語。流暢な言葉でイタリア人、スペイン人の選手たちとも円滑にコミュニケーションを取る。
「準備が命と言っていい。綿密な計画のもとに選手たちは走っている。レースには偶然の要素もあるが、このレベルになると難しい」
作戦に説得力を持たせるために心を砕く。チームは多国籍軍。日本人選手はいるものの、主力は自転車大国のイタリア、スペインの選手たちだ。それでも、水谷監督の言動には気後れなどみじんも感じない。