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“ロベリー”がバイエルンを去る日の涙。
サポーターも、警備員も、審判も。 

text by

島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byUniphoto Press

posted2019/05/26 08:00

“ロベリー”がバイエルンを去る日の涙。サポーターも、警備員も、審判も。<Number Web> photograph by Uniphoto Press

最終節でブンデスリーガ7連覇を達成したバイエルン。(前段左から)ロッベン、ラフィーニャ、リベリーの最後の勇姿にサポーターたちは涙した。

「Mia san mia!」

 ラフィーニャが言います。

「僕らはいつだって勝利を勝ち取ってきた。(自分が過ごした)この8年間は本当にアメイジングだった。すべてに対してありがとうと言える。僕らはファミリーなのだから」

 リベリーがラフィーニャと抱擁を交わし、チームメイトの胴上げで彼の身体が宙に舞います。ラフィーニャが如何に、このクラブに、チームに愛されていたかがうかがえるシーンです。

 ロッベンの言葉も胸に響きます。

「ここで過ごしたすべての日々でのサポートに、心から感謝します。10年もの長い間……。私は貴方たちの一部。それは決して変わらない」

 涙に暮れるリベリーは、バイエルンというクラブに根付く絆の言葉を発しました。

「なんて言ったらいいか、難しいよ……。すべてに対してありがとう。僕らが共に過ごした時間は本当に素晴らしかった。12年も一緒だったんだ。信じられないよ(涙)。皆を愛している。『Mia san mia!』」

 ラフィーニャ、リベリー、ロッベンが発した言葉はすべてドイツ語……。

『Mia san mia!(ミア・ザン・ミア)』とは、ミュンヘンが属する南ドイツ地域の方言で、直訳すると「俺たちは、俺たちだ!」という意味です。バイエルンではこの言葉をクラブ訓としていて、リベリーはその精神を最後にサポーターへ向けて捧げたのです。

長谷部が「二兎を追って」感じたこと。

 プロサッカー選手全員が、かけがえのない出会いと別れを経験するわけではありません。中には、この世界で生き抜くために、自身の生活のためにお金を稼ぎ、その義務を果たすことだけに注力する選手もいるはずです。

 一方で、互いに手を携えて人生を歩んだ日々を尊び、愛するクラブ、チーム、そして仲間たちと惜別の念に暮れる選手たちもいる。

 試合後、惨敗を喫しながらもリーガ7位で来季のEL予選からの出場権を獲得したフランクフルトの長谷部が言いました。

「今回、僕らは(リーグ4位以内の)チャンピオンズリーグ出場権(とEL制覇)を追っていましたが、その両方とも獲ることができなかった。だけど、その二兎を追わないと感じられなかったことがあると思うんですよね」

 高みを目指したからこそ得られる歓喜、感慨、傷心、寂寞、そして感謝……。

 様々な思いに駆られながら、アリアンツ・アレナを出て地下鉄で街へ。車内ではユニホームを着た小さな女の子が右手で選手の写真を握りしめ、母親の胸に顔をうずめていました。

 お母さんが優しく語りかけます。

「いいのよ。泣きなさい。その気持ちが思い出になって、あなたの心に、彼らが生き続けるから」

 車内に射し込む眩い夕陽の光が、涙色に滲む車窓の景色を、鮮やかに照らしていました。

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