ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
“ロベリー”がバイエルンを去る日の涙。
サポーターも、警備員も、審判も。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byUniphoto Press
posted2019/05/26 08:00
最終節でブンデスリーガ7連覇を達成したバイエルン。(前段左から)ロッベン、ラフィーニャ、リベリーの最後の勇姿にサポーターたちは涙した。
レジェンドたちのラストマッチ。
最寄り駅から歩いて10分ほど。バイエルンの赤、フランクフルトの黒。両サポーターが呉越同舟で行進する様は“安心・安全”のドイツのサッカー環境を如実に示しています。殺伐とした空気が流れてもおかしくないのに、この整然とした空気感は何なのでしょう。
横を通り過ぎる御仁の背に書かれた「10」の文字を凝視すると、数字の中に誰かが万歳している写真がプリントされています。そう、それはアリエン・ロッベン。“常勝”バイエルンの歴史を紡いだ正真正銘のレジェンド。
今日のゲームはすでにクラブからの退団が発表されているロッベン、フランク・リベリー、そして元ブラジル代表DFラフィーニャが、バイエルンでの最後のゲームに臨む日でもあるのです。
大一番のゲームですから、当然チケットはソールドアウト。取材メディアも各国から大挙押し寄せていて、メインロアースタンドにある記者席だけでは足りず、スタジアム内のエレベーターで6階まで上がったメインアッパースタンド上段にも仮設記者席が設けられていました。
今日の雰囲気を身体全体で味わいたいから、試合開始1時間半くらい前から記者席に座って周囲を観察していました。父親が息子を呼び寄せ、ピッチを背景にして記念写真を撮っています。片手にソーセージパン、お腹にビールを流し込む恰幅の良い中年男性が涼風に当たりながらスタンド階段で仁王立ち。彼の背中に輝く背番号7がことさら大きく見えます。
警備員も釘付けにしたリベリーの涙。
『バーン』という音楽とともに、ウォーミングアップのために選手たちがピッチへ。すると普段は背中越しに観客をさばく警備員さんまでもがサッとピッチへ向き直り、しきりに誰かを探しています。
最初にビジョンに大映しにされたのはラフィーニャでした。柔和に微笑む彼が盛大な拍手を受けて片手を上げています。続いて場内を仕切るスタジアムアナウンサーが高らかにコールを発して歩み寄った先には、リベリーがいました。ビジョンには彼が積み上げた輝かしい歴史の数々を振り返る名シーンが映し出されています。後ろ手を組んでそれを見つめていたリベリーにサポーターからの大声援が降り注いだ瞬間、彼は片手で何度も顔を拭いました。