ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
“ロベリー”がバイエルンを去る日の涙。
サポーターも、警備員も、審判も。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byUniphoto Press
posted2019/05/26 08:00
最終節でブンデスリーガ7連覇を達成したバイエルン。(前段左から)ロッベン、ラフィーニャ、リベリーの最後の勇姿にサポーターたちは涙した。
審判がリベリーに与えた警告と抱擁。
試合はバイエルンが早々に先制するも追加点を奪えず、後半開始直後にフランクフルトが追いつくというスリリングな展開。
でも“常勝チーム”はまったく動揺しませんでした。怒涛のアタックでダビド・アラバが2点目を決め、レナト・サンチェスの3点目でスタジアムはお祭り騒ぎ。そして61分、先制点を決めたキングスレー・コマンに代わってリベリーがライン際に立ったのが最初のハイライト。優勝が懸かった大一番なのに余裕と風格が漂うアリアンツ・アレナの雰囲気に、外様の僕は終始圧倒されていました。
72分、左サイドでボール保持したリベリーが独特のフォルムからドリブルを繰り出します。ダビド・アブラアム、ダニー・ダコスタ、そして最後に長谷部誠をかわして軽やかにジャンプして右足フィニッシュ!
ユニホームを脱ぎ捨てて歓喜の雄叫びを上げた彼の背中に「リベリー! リベリー!」という大歓声が降り注ぎます。得点後にスタートポジションへ戻る際、待ち構えたサッシャ・ステゲマン主審がイエローカードを掲示する前にリベリーと祝福の抱擁を交わしました。それは紛れもなく、サッカーファミリーの一員としての敬意の表れです。
両手を広げたロッベン、味方も大興奮。
リベリーがゴールを決める前、もう1人のレジェンドが気になっていた僕。メインスタンドから見て左側のゴールライン際に控えるメンバーの中に、自陣ベンチへ向かって大声で何かを叫んでいる選手がいます。それを見たバイエルンのニコ・コバチ監督が手をこまねいて呼び寄せる動作をすると、その選手は「よっしゃ! 来た!」とばかりに全力ダッシュしてジャージを脱ぎ捨てました。
あっ、最短距離を走ってインプレー中のピッチを跨いじゃった。もう我慢できない。盟友の勇姿に触発された背番号10は感情を抑制せず、跳ねるようにしてピッチへ駆け出していきました。
78分、アラバが左サイドからゴール前へ侵入すると、僕の周りにいた観衆が「アリエン、アリエン」と呟きます。その音量のか細さには心からの懇願が秘められていて、願いは確かにピッチ上へ届き、味方のアシストを受けたロッベンが必殺の左足でフィニッシュ!
お馴染みの両手を広げるポーズを挟んで疾走する彼にチームメイトが殺到し、GKのスベン・ウルライヒが自陣ゴールから約100メートルの距離を駆けて歓喜の輪に加わったところで大団円。こんな夢のような結末を、一体誰が想像したでしょうか。
試合は5-1でバイエルンが大勝。リーガ制覇のセレモニーは前座に過ぎず、立錐の余地もないスタンドがレジェンドたちの言葉を待っています。