濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
過激さを凌駕するドラマに酔いしれた、
葛西純と藤田ミノルの“同窓デスマッチ”。
posted2019/05/16 17:30
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
言うまでもなく、デスマッチはグロテスクで残酷に見える闘いだ。蛍光灯で殴り、画鋲をぶちまけたマットやガラスボードの上に投げ捨てる。血だるまになるのが当たり前で、攻めるにしろ技を受けるにしろ平常心でできるものではないだろう。ルアーや金串を口に突き刺す選手もいる。
ファンは攻撃が過激になればなるほど熱狂する。だがそれは“残酷ショーを高みの見物”という類のものではない。実際に見てみれば分かるが、デスマッチファイターに対して抱くのは「もっとやれ」というサディスティックな感情ではなく「どうしてそこまでできるんだ」という畏怖なのだ。
過激さに熱狂する時、ファンが見ているのは選手の精神性だ。「お前がそこまでやるなら俺はこうしてやる」という、心意気のラリーこそデスマッチではないか。
そのラリーが、過激さという形を取らないこともある。5月2日、プロレスリングFREEDOMS後楽園ホール大会のメインイベントがそうだった。
恩人で後輩の“カリスマ”に挑戦要求。
団体の頂点のベルトであるKING of FREEDOM WORLD CHAMPIONSHIP。王者である葛西純に、フリーの藤田ミノルが挑んだ。
かつて後楽園のバルコニーから落差6mのダイビング・ボディプレスを敢行、世界中にファンを持つ“デスマッチのカリスマ”葛西だが、このところ「俺に刺激をくれ」が口癖になっていた。
ライバルと何度となく死闘を繰り広げてきただけに“これ以上、何をやればいいのか”という状態になるのも無理はない。伊東竜二とのデスマッチでプロレス大賞のベストバウトを受賞して、今年で10年になる。
そこに挑戦を表明したのが、FREEDOMSでは同じユニット、UNCHAINに属する藤田だった。2人は約20年前、大日本プロレスで新人時代を過ごした仲だ。藤田が1年先輩だった。