濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER

過激さを凌駕するドラマに酔いしれた、
葛西純と藤田ミノルの“同窓デスマッチ”。  

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2019/05/16 17:30

過激さを凌駕するドラマに酔いしれた、葛西純と藤田ミノルの“同窓デスマッチ”。 <Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

5年ぶりに先輩・藤田ミノルと戦った葛西純(右)。バックステージでは涙を見せた。

葛西が舞台裏で見せた涙。

「藤田先輩、今日はとびきりの刺激をありがとうございました!」

 試合を終えた葛西はそう言って頭を下げた。どんなアイテムを使ったかでも、どれだけ血を流したかでもない。まだ何者でもなかった時代をともに過ごした藤田と対戦すること自体が“刺激”だったということだろう。

 葛西vs.藤田のシングルマッチはこれが5年ぶり2回目。前回は「裸足画鋲デスマッチ」という、リングに立っているだけでも激痛が走る試合形式だった。味わっていない互いの技量や底力が、出会って21年になるこの日まで残されていた。

 バックステージでは、葛西の涙を始めて目にすることになった。

「デスマッチのカリスマと呼ばれ、いろんなものを得た葛西純だったけど、一番大事な、闘いにおける刺激ってものを失って……。それに気づいて挑戦してくれたのが、いろんなものを失った藤田ミノル先輩だった……」

インディーレスラーの“商品価値”を問う。

 敗れた藤田は「俺はまだ何者でもねえ」と言った。福岡を出て、インディーマットの最前線に戻ってまだ2年だ。やるべきことはまだまだある。この日の客入りは上々だったが、満席にならなかったことへの不満も素直に打ち明けた。自分がメインでタイトルに挑むことが決まってから、藤田はずっとチケットの売れ行きを気にしていたという。前述のようにチケット即売会イベントも開催した。

 プロレス界を見渡せば、自分よりはるかにキャリアの浅い女子プロレスラーたちの団体が後楽園を満員にしている。「隣」、すなわち東京ドームでは、男性アイドルが4、5人で数万人を動員する。

「水道橋界隈も総武線もいい匂いにして、経済効果も与えて。それに対抗しようとは思わねえけどよ、少しは意地見せるヤツがいねえとつまんねえだろ」

 藤田が問いかけているのは、泥臭く生きてきた20年選手である自分のようなインディーレスラーの価値だ。もっとダイレクトに“商品価値”と言ってもいい。たとえインディーだろうとデスマッチだろうと「分かる人だけ分かればいい」とは口が裂けても言いたくないのがプロというもの。

 家族との穏やかな暮らしを捨てた藤田を支えているのは、この世界で「食っている」ことへのプライドだ。心意気を“カリスマになった後輩”にぶつけて、残ったのは「まだまだ満足できない」という思いだった。

 この日、家に帰ってデスマッチを終えた葛西と藤田は、翌日のFREEDOMS横浜大会にも揃って出場している。生きるための闘いは続く。

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