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Vリーグ連覇に貢献、次は代表で。
“8時半の女”石井優希は強くなった。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byNaoki Morita/AFLO SPORT
posted2019/05/08 15:00
久光製薬の連覇に貢献した石井優希。東京五輪に向け、確かな「自信」を得た。
「大事なのは失点しないこと」
石井を崩せば勝てる、と翌年のシーズンからはどのチームも徹底してサーブで石井を狙う。最も多い時には900本以上のサーブを受けたこともあった。
そうなれば必然的に、たとえ1本返らなかったからとはいえ、引きずる時間はない。次、また次、と練習ではなく、試合で繰り返す経験を通して感覚が磨かれ、崩されても落ち込むのではなくステップを入れたり、守備位置を変えたり、次はどうすればいいか、実戦の中で石井もさまざまなチャレンジを試みるうち、「こうしなきゃいけない」とがんじがらめになっていた状態から、少し肩の力が抜けた。
「ミーティングで相手のサーブへの対策を考える時、いつも私が崩された映像ばっかり見せられるんです(笑)。だからいつも崩された印象が残るんですけど、特に世界はみんなサーブがものすごくいいし、同じジャンプフローターでも日本人とは高さや重さ、軌道も全然違う。
だから今は『Aパスを返す』と言われても、確かにそれは大事だけれど、今の時代はAパスだけじゃないから、大事なのは失点しないこと。パスが崩れた状況からの二段トスをどう決めるか。その技術を磨こう、と考えられるようになりました」
連覇達成も、石井が抱えていた葛藤。
昨シーズンのVリーグではMVPも受賞し、世界選手権でも攻守の中心を担い、試合出場を重ねた。来年に迫る東京五輪へ向け、技術面も精神面も更なる飛躍を遂げる。そう意気込んで迎えた'18-19シーズン。
振り返り、数字だけで評価するならば常に安定したパフォーマンスを発揮し、連覇も遂げた充実のシーズンに見えた。
だが、そう話を向けると、一瞬、石井の顔が曇った。
「心と体のバランスが整わなくて、すごくつらかったです。若い子を引っ張らなきゃ、(主将の岩坂)名奈さんを助けなきゃ、と思っているのに、精神的にも不安定で試合前とか、練習中に涙が出てくる。MVPをいただけたことを自分の中で勝手にプレッシャーにしていたし、今までは自分のことだけ、こうなりたい、こうしなきゃ、と考えていたけれど、周りをどうにかしなきゃ、と思うといろんなことがストレスになる。
だけど、自分はすごく苦しいのに、プレーはそこそこできるんです。その噛み合わないバランスが余計に苦しくて。今まで感じたことがない、いろんな思いがあったシーズンでした」