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マスターズ最終日を戦った金谷拓実。
差を感じ、ホールインワンにしびれ。 

text by

桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byAFLO

posted2019/05/08 07:00

マスターズ最終日を戦った金谷拓実。差を感じ、ホールインワンにしびれ。<Number Web> photograph by AFLO

マスターズの地をアマチュアで踏むことの意味は大きい。金谷拓実は松山英樹のあとを追うことができるか。

「ゴルフを観るのってそんなに楽しいのかな」

 東北福祉大ゴルフ部を支える大坂武史トレーナーは、必ずしも体格に恵まれていない20歳について「動きに対する“感覚”に優れている」と評す。

「トレーニングのメニューを教わったとき、最初はできなくても、自分で咀嚼して、考えて、正しい動きがいつの間にかできるようになっている。それが運動能力が高いということなんです」。ただ情報を受け取ることと、それを体現することは別次元の話である。

 高校時代までを主に広島で育った金谷は今でも野球観戦がプライベートの楽しみでもある。少年時代、“赤ゴジラ”こと嶋重宣選手のユニフォームに身を包んで地元のカープを応援しながら、自身はプロゴルファーになる夢を描いた。

 ただし正直に言えば、ゴルフというスポーツが観る人にとってどれほど魅力のあるものかは、中学を卒業しても分からずにいたという。だからそれを自分で体験してみることにした。豪州でプロの試合に出場した高校2年の時のこと。予選落ちした週末にひとりギャラリーに混じって選手を追った。

「それまではいつもプレーする側だったから、『ゴルフを観るのってそんなに楽しいのかなあ』って思っていたんです。アダム・スコットやジョーダン・スピースも出ていた試合でしたけど、“スーパースター”とは言えないような、早い時間の地元の選手の組を観ました。それでもプロのプレーを観ていたら、ワクワクした。ゴルフは観ても楽しかった。よかった……と思ったんです」

立ち会ったホールインワン。

 マスターズの最終日、思わぬシーンに立ち会うことができた。一緒にプレーしていたブライソン・デシャンボーが16番パー3でホールインワンを達成。スーパープレーを繰り出したプロは、興奮のあまり、すぐ後ろにいた金谷に最初に抱き着いてきた。

 グリーン手前の池に沿う花道を歩く間、スタンディングオベーションでたたえるパトロンから拍手の雨が降り注いだ。自分に向けられたものではなかったが、世界最高のゴルフショーの魅力が垣間見えた。

 このホールをボギーとした金谷は、もうひとりの選手のプレーを待つ間、デシャンボーに改めて自ら祝福の言葉をかけ、グリーンサイドで握手を交わしていた。

【次ページ】 「何が足りない、というのではなく」

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金谷拓実

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