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超進学校・日比谷の文武両道とは。
自らも部活顧問を続ける校長の理想。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byWataru Sato
posted2019/05/03 11:00
日比谷高校の武内彰校長。「最近は腰が痛くて」と笑いながらも、生徒との試合は全力で勝ちにいく。
「日比谷では、学力と人間性の両方を」
いま、日本全国で部活動は岐路に立たされている。体罰に、長時間練習。顧問の先生の負担が大きく、「ブラック部活」という言葉も生まれた。
しかし、都立高校の雄である日比谷高校の校長先生が自ら部活動の指導に当たっているとは、部活動の価値を認めているからではないか。武内校長は、日比谷高校での部活動の意義をこのように話す。
「現在、生徒の部活加入率は94パーセントです。日比谷では、学力と人間性の両方を追い求めてもらいます。本校の目標は大学進学実績をあげることではなく、あくまでリーダーの養成です。頭ばかりで考える人間ではなく、部活動などを通した全人教育ですね。ですから、日比谷ではすべてにわたって生徒に頑張ってもらいます。
すべてのことに頑張れる生徒が周りにいるからこそ、みんなが頑張れる。部活動を続けながら進学目標を達成するには時間のやりくりを覚えなければいけませんし、そうした環境に身を置くことで、自分が持っている力に生徒に気づいて欲しいのです」
受験と部活、永遠のテーマへの答えは?
武内校長がこう力説するのは、自らの高校時代の部活動体験も影響しているようだ。
「大事な団体戦の前、右手中指を骨折してしまったんです。そしてギプスで固定し、包帯をぐるぐる巻きにして試合に臨んだんですが、勝った。そうしたらチームメイトが、骨折した私が勝つとは想像していなかったのでしょう、涙を流していたんです。みんなの期待以上のことが出来たんだな、と今でも記憶に残っています。そして、3年間部活動をやり遂げたという手応え。これが社会に出てから自分を形成する一部になりました」
昔も今も、部活動を3年間続けるかどうかは、生徒にとっては大きなテーマだ。難関大学を目指す日比谷の生徒であれば、成績が下がれば親からのプレッシャーもある。そんな悩みを抱えた生徒が校長室に相談にやってくることもある。
「私はこう質問します。いま、君が部活動に当てている時間を、辞めたからといって、すべて勉強に当てられるの? と。ほとんどの生徒は首を振ります。じゃあ、時間の使い方を見直して、勉強時間をどう確保するのか考えてみたらと話します。そうした壁にぶつかるのも成長するチャンスなんです」