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超進学校・日比谷の文武両道とは。
自らも部活顧問を続ける校長の理想。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byWataru Sato

posted2019/05/03 11:00

超進学校・日比谷の文武両道とは。自らも部活顧問を続ける校長の理想。<Number Web> photograph by Wataru Sato

日比谷高校の武内彰校長。「最近は腰が痛くて」と笑いながらも、生徒との試合は全力で勝ちにいく。

最初は座り込んでいた生徒たちが……。

 前任の都立西高の副校長、日比谷の校長と激務のなかで、武内校長はなぜバドミントン部の指導を続けてきたのか。

「現実的な問題でいえば、管理職になってからも続けているのは、教職員にバドミントンの経験者がいなかったこともあります。もしも、バドミントンをプレーしていた先生がいれば、任せていたでしょうね。私の経験に則していえば、部活動の指導を通して、生徒と深い付き合いが出来ることに楽しみがあります。

 初任の秋留台高校では少し厳しい練習をすると、生徒が座り込んでしまったのを覚えています。無断欠席すれば、電話で追いかけもしました。生徒たちは徐々に力をつけ、支部で優勝するまでになり、それにともなって学習面での伸びにもつながりました。そうして顧問としてスタートして、37歳までは生徒とまったく同じ練習メニューをこなしていましたね。いまは、生徒を前面に出し、練習計画についてはアドバイスをしつつ、試合では見守るスタイルに変化しました」

試合を投げたことを見抜かれ、生徒が泣く。

 今年3月に卒業した学年の男子は、経験者が揃っていたこともあり、全国選抜大会出場まであと3勝というところまで迫ったほど。

 いまも1年生を相手にすれば、武内校長が勝つという。

「16歳から18歳という年齢の若者は、想像を超えた成長を見せます。レギュラークラスであれば、私を追い抜いていくんです。

 面白いのは、生徒と試合をすると考えていることが手に取るように分かることです。1年生が大差をつけられた場合、試合を投げてしまうことが多々あります。そんなときは、試合が終わってから、『あそこで試合を投げていなかった?』と質問をします。すると、生徒は泣くんです。苦しい流れになったとしても、諦めないでラリーを作っていくことが強くなることにつながるんだよ、とアドバイスをします」

専門ではない部活顧問への配慮も必要。

 生徒だけではなく、高体連の専門部長として顧問の先生方への気配りも欠かせない。

「幸いなことに、私はバドミントンの指導をつらいと思ったことは一度もありません。ただ、専門性のない競技の顧問を務めるのは、ストレスにつながる可能性はあるでしょう。そうした問題に対処することも経営側の仕事に求められていますね」

 部活動の人数や、競技の目標をどこに置くのかによって、運営やゴールは自ずと変わってくる。

 部活動のマネージメントに正解は見つけづらいが、メディアのネガティブな報道ばかりではなく、日比谷でのこうした取り組みがもっと知られてもいいと、私は思う。

 部活動には、教室では得られない価値がある。適切な指導者と、ゴール設定があれば。

【次ページ】 文武両道が、部活である必然性はない。

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#都立日比谷高校

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