松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
ゴールボールの天摩由貴が、ロンドン
パラに出場後、陸上競技をやめた理由。
posted2019/05/06 08:00
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph by
Yuki Suenaga
松岡修造が、パラアスリートと真剣に向き合い、その人生を深く掘り下げていく「松岡修造のパラリンピック一直線!」。女子ゴールボール日本代表・天摩由貴さんは、身長155cmの小さな身体を目一杯伸ばして自陣のゴールを守り、全身をしならせて剛球を放つ。
じっくりと座ってお話を聞く前に、松岡さんから天摩さんに、リクエストがあった。
「一度、本気で投げたボールを体感したい」――。
松岡 捕る自信はまったくないので、立ったままでいいので、僕の方に投げ込んできてください。
日本ゴールボール協会理事で、代表チームの監督やコーチ歴がある増田徹さんが、修造さんと天摩さんの距離を測り、天摩さんをスタートポジションに導いた。天摩さんが、試合と同じ感覚で投げたボールは一瞬で松岡さんの脇を通過し、大きな衝撃音と共に体育館の壁にぶつかった。
松岡 うわあ……。壁、凹んでません? 大丈夫なのか……。これを受けるわけですね。怖くないんですか。もっとガードとか体の色んなところにつけた方が良いですよ。
天摩 肘や膝にパッドが入ったサポーターをつけることはありますけど、胸当てまでやると正直ジャマに思えるんです。あくまで私の感覚ですけど。
松岡 僕だったら間違いなく全身につけます。これがもし歯に当たったら折れるでしょ。
増田 折れますね。
天摩由貴(てんま・ゆき)
1990年7月26日 青森県生まれ。先天性の網膜色素変性症を患っており、視野狭窄が徐々に進み、失明の可能性がある。幼い頃から運動が好きで、高校、大学時代は陸上に打ち込み、ロンドンパラリンピックでは陸上女子短距離に出場。その後ゴールボールに転向し、リオパラリンピックでは日本代表として5位入賞。2017年からは日本代表のキャプテンを務め、アジアパラ競技大会では2014(インチョン)、2018(ジャカルタ)とメダル獲得を果たしている。㈱マイテック勤務、チーム附属所属。
松岡さんは……よく喋っている人。
天摩 そうならないように、腕の位置に顔を持ってくるようにディフェンスするんです。そしてボールがバウンドして超えていかないように肘を伸ばして壁を作る。ゴールボールってピンポイントでキャッチするというよりは1枚の壁に当てるという意識なんですね。だから試合中は「どこかに当たれ!」って思いますし、場合によっては顔も壁の一部なんです。
天摩さんのその言葉に思わずみんながあっけにとられたところで、いったん練習は中断に。椅子に腰掛け、向き合う形で対談が再開された。
松岡 由貴さんにとって、松岡修造ってどんな人ですか。
天摩 テレビでよく喋っているひと。
松岡 そんなに喋っている印象があります? どちらかというと聞くポジションなんだけど、そっか(苦笑)。顔は知ってますか。小さいころは目が見えていたと伺っています。
天摩 すみません。分からないです。生まれたところから出直さないと(笑)。