野球善哉BACK NUMBER
佐々木朗希の163kmは朗報か、警鐘か。
135kmで故障率2.5倍というデータも。
posted2019/05/02 08:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
過熱ぶりはすでに本家を超えている。
高校日本代表候補研修合宿で163キロを計測したという大船渡の豪腕・佐々木朗希のことだ。
ネットメディアの普及もあって、4月6日の高校日本代表候補研修合宿で163キロを叩き出した右腕の噂は、またたく間に世界中を駆け巡った。花巻東高時代の大谷翔平が高校3年夏に到達した「160キロ」の領域にすでにたどり着いた事実には、ただただ驚くばかりだ。大谷翔平が海の向こうから感想を述べるくらいなのだから。
かつては160キロを投げる投手などほとんどいなかったのに、こうも続いて出てくるのは、日本野球のレベルが高まっているからだと感じずにはいられない。
ただ、この衝撃的なニュースは2つの側面から見る必要がある。
1つは「大谷レボリューション」が巻き起こっているということ。
もう1つは、球界への危険なメッセージが隠れているということだ。
先駆者の存在が全体のレベルを上げる。
まずはポジティブな話からしていきたい。
佐々木が163キロを叩き出した背景に大谷の存在があることは、いまさら言うまでもないだろう。
先駆者が1つの壁を乗り越え、偉業を果たす。すると、同じレベルを目指すフォロワーが生まれる。これはスポーツ界に限らず、どのような業界でも起こる現象だ。
そもそも大谷本人も、それを求めていた。
大谷が高校3年生だった頃、自身が160キロを記録したことについて、こんなことを語っていたものだ。
「僕が160キロを目標にしたのは、ピッチャーとして常識を覆したいという想いがあったからです。もし160キロを出せば、また次に160キロ以上を目指す人も増えてくると思うんです。目標のレベルが高くなれば、野球のレベルが高くなる。野茂さんがアメリカで結果を残して、日本人の目標のレベルが変わりました。自分もそうやって目指されるように、世界レベルで活躍する選手になりたい」
つまり、大谷の「160キロへの挑戦」は、日本野球のレベルそのものを上げることとつながっていた。
野茂英雄がメジャーリーグの扉をこじ開けて、そのあとに多くが続いたように、イチローがNPBでシーズン200安打を達成したのちに、青木宣親、西岡剛、秋山翔吾が続いたように、日本人にとって、そして佐々木にとって「160キロ」は目指していい目標になったのである。
それが「大谷レボリューション」と呼べるものだ。