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佐々木朗希の163kmは朗報か、警鐘か。
135kmで故障率2.5倍というデータも。 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2019/05/02 08:00

佐々木朗希の163kmは朗報か、警鐘か。135kmで故障率2.5倍というデータも。<Number Web> photograph by Kyodo News

ここから夏まで、大船渡・佐々木朗希は常に異様なムードの中で投げることになる。どうか流されず自分の体を気遣ってほしい。

球が速い投手ほど、配慮が必要になる。

 肘の故障と関連度が高い要素もいくつか挙げられていて、たとえば135キロ以上のボールを投げると、故障のリスクが2.5倍上がると紹介されていた。

 この指摘に驚き、手を挙げて質問した。

 私が尋ねた内容は、「135キロ以上を投げると故障リスクが高まるとしたら、大船渡高校の佐々木朗希選手が163キロを投げたという報道は歓迎していいことなのでしょうか。高校時代に160キロを投げた大谷翔平は、肘を損傷してトミー・ジョン手術を受けました。彼の故障要因の1つがもし球速だとしたら、佐々木投手の163キロを賞賛して良いのか迷いが生じるのですが、医学的な意見としてどう思いますか」というものだ。

 古島先生は、「スピードの出し過ぎだけで靭帯を損傷するとは決め付けられません。故障を引き起こす環境因子はたくさんあります」と説明した上で、1つ気がかりなことを口にした。

「速い球を投げることにリスクがあるのは事実です。その場合は、球数を減らすなどの配慮は必要になってくると思います。他の部分でバランスを取らないといけない。メディアに踊らされて、壊すのは良くないと思います」

高校野球の環境は巨大なプレッシャー。

 勘違いして欲しくないのだが、高校時代に160キロを出した大谷がトミー・ジョン手術を受けたから、佐々木もその可能性が高いと言いたいのではない。160キロを投げられることは素晴らしい才能である一方で、高校生の体に大きな負荷がかかっていることを、多くの人が意識した方がよいのではないか、ということである。

 160キロを投げる才能があるからこそ、大袈裟なくらいのケアや球数管理といった配慮が必要になるだろう。

 過熱する報道はもちろん、顔見せのための登板、スカウトを意識した過剰なアピールは気をつけなければならない。高校野球ファンの熱狂ぶりは異様なほど高く「佐々木を見たい」と岩手県まで駆けつけるだろう。それを周囲が忖度して、彼に無理を強いることがあってはならない。

 今の高校野球の環境は、佐々木のような選手に過大なプレッシャーをかけがちなことだ。これは、指導者がどれだけ良識的でも止められない時がある。

【次ページ】 盛岡大附の監督は過去を後悔。

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