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ダルビッシュが取り戻した遊び心。
職人系より、ゲーマー系でいこう。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2019/04/23 10:30
303日ぶりの勝利が話題となったダルビッシュだが、今はマウンドに立つこと自体が楽しくて仕方なさそうだ。
「職業的になっている。自分らしくない」
本人の中には確かに「良い感覚」というのがある。難しいのを承知で、それを理詰めで再現しようとしてきた。努力の甲斐あって、平地での立ち投げや投球練習では良くなったが、相手の打者や天気や観客を入れた野球場の雰囲気など、環境が変わるとまた違ってしまう。
そんなことが何度となく繰り返され、ふと気が付けば、敵は相手チームではなく、自分自身になっていた。
「職業的になっている。自分らしくない。自分はもっと芸術家と言うか、自分のやりたいことをやって味が出るタイプだと思っているので、職人系じゃない。考えて考えてっていうタイプじゃないから」
日本にいた頃の彼の姿を覚えている人、リアルタイムではなくとも当時の映像を見たことがある人ならば、その言葉に納得がいくのではないか。
昔の彼はマウンド上で感情を露わにしていた、ということではない。当時のダルビッシュも、今とまったく同じように冷静沈着に打者を打ち取っている。
だからリゾが言うような「怒り」も、そこにはない。
違うのは、マウンド上の彼が、どこか嬉々とした表情を浮かべていることだ。
マウンド上で打者と対峙することに、立ち向かってくる彼らを速球でねじ伏せたり、多彩な変化球でバットに空を切らせることが、楽しくて、楽しくてしょうがないという風に。
まるでゲームをクリアするかのように。
ダルビッシュは20日の試合後、こう言っている。
「昔はとにかくエグい球を投げようと、次、こんな握りで投げたら、こんな変化するんちゃうかとか、ずっと考えてた。だから、ブルペンの日とかもすごい楽しみやったし、このフォーク落ちるんちゃうかとかやってた」
プロの世界でそんなことを考えながらやれるのは、当時の彼がとにかく、圧倒的だったからだろう。 それが変わった理由はおそらく、ひとつではない。
まるでゲームでもやるかのように「この敵をやっつけるのには、どんな武器をどう使えばいいのか?」、「このダンジョンをクリアするには、どのぐらいのレベルになればいいのか?」と考えて楽しむ。
打者を攻略するための武器を磨き、チームを勝たせるために試合をこつこつと作り上げていく――。
そんな楽しみが少しづつ失われていった理由は、とてもシンプルに書けば、そこがメジャーリーグだったからだと思う。