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ダルビッシュが取り戻した遊び心。
職人系より、ゲーマー系でいこう。
posted2019/04/23 10:30
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
AFLO
それは4回裏、味方の攻撃中だった。
4月20日、シカゴ・カブスの本拠地リグリーフィールドの三塁側ダッグ・アウトの後列で、その日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦に先発したダルビッシュ有投手は、心の中にある種の澱みを抱えながら、静かに戦況を見守っていた。
また、同じだ。どこかしっくり来ない。スライダーやカーブやカッターなどの「曲がる系」はいいが、ファストボール=速球を投げる時の感覚が良くならない――。
初回に甘い速球を叩かれて先制のソロ本塁打を許した。2本目の本塁打は低めのスライダーをうまく打たれたが、2回はずっと課題だった速球の制球が乱れての連続四球から、犠打と犠飛で3点目を失った。
針の穴を通すような精密なコントロールで勝負してきたわけではないが、それにしてもコントロールできない。
いろいろ手は尽くしている。体の捻りを抑え気味に投げてみたり、前屈みにならぬように重心を踵寄りにしてみたり。左足の上げ方も変えてみた。投球前の準備の仕方も変えた。
だが、何をやっても本当の意味で、良くなっていない。3回と4回は走者を出しながらも無失点に抑えたが、納得できるはずがない。
チームメートからの助言は「怒れ」。
ふと気が付くと、隣に一塁手のアンソニー・リゾが座っている。ダルビッシュは思わず、こう尋ねたという。
「なんか、アドバイスくれよ」
悩める右腕に、真剣な顔つきで、リゾは答えた。
「You gotta get angry.(怒れよ)」と。
怒れって、どういうこと? 誰に? どうやったらいいの?
「簡単だ。◯◯◯◯・ユーだ」
いわゆる、放送禁止用語。しかし、スポーツ界の舞台裏ではフランクに使われる。リゾは続けて、打者としての立場から「Yu Darvish」をこう見ていると明かした。
「俺たち打者は、お前と対戦するのが怖いんだ。お前がバンバン行けば打たれないよ。逆にお前が怖がっていたら、俺らは打てるんだ」