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清原和博と野茂英雄。力と力、
平成屈指の名勝負を振りかえる。
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byMakoto Kenmisaki
posted2019/04/21 12:00
多くの投手にとって清原和博が特別だったように、清原にとっての野茂英雄もまた特別な投手だった。
152打席ぶりの一発は、好敵手から。
6月4日、西武球場。
あまりのスランプに視野が狭まり、自分にしか目が向いていなかった清原にとって、目を向けざるを得ない相手がマウンドに立っていた。
野茂英雄である。
清原はマウンドの野茂に集中した。
まだ陽が落ちる前の狭山丘陵で、その対決を「意識する」という清原と、「意識しないようにする」という野茂。この対峙が、清原の本能を呼び覚ます。
1回裏、辻発彦がヒットで出て、平野謙がバントで送る。秋山が三振に倒れたツーアウト2塁で、4番の清原が打席に入った。フルカウントとなって、野茂がキャッチャーのサインに首を振る。そして野茂がありったけの力を込めて腕を振った――キャッチャーの山下和彦がアウトローにミットを構えたものの、野茂のストレートはそんなことはお構いなしに、アウトハイへ浮き上がる。見送ればボールだったかもしれない暴れん坊の如きまっすぐを、高めが苦手な清原が“しばき”倒した。打球は一直線、弾丸ライナーとなって、レフトの芝生席に突き刺さった。
152打席ぶりの7号ホームラン。
一塁へ走りながら、思わず右の拳を振り下ろして喜びを表した清原。野球人生、こんなに長い間、ホームランを打てないことはなかったという天才スラッガーは、ライバルの存在によって覚醒した。久しぶりに“力対力”を味わわせてくれた清原対野茂。2人の対決は、これから長く、平成の名勝負として語り継がれるに違いない。
KKが躍動し、松井秀喜が吠え、そして大谷翔平が新時代を切り拓く――。
平成のスタジアムを彩った野球人30人の、栄光と不屈のストーリー。
(各年で取り上げた選手・監督)
平成元年 中畑清/平成2年 与田剛/平成3年 清原和博/平成4年 西本聖/平成5年 野中徹博/平成6年 長嶋茂雄/平成7年 野村克也/平成8年 伊藤智仁/平成9年 桑田真澄/平成10年 王貞治/平成11年 星野仙一/平成12年 杉浦正則/平成13年 中村紀洋/平成14年 松井秀喜/平成15年 高橋由伸/平成16年 和田毅/平成17年 今岡誠/平成18年 イチロー/平成19年 松坂大輔vs.イチロー/平成20年 山本昌/平成21年 斎藤佑樹/平成22年 ダルビッシュ有/平成23年 谷繁元信/平成24年 栗山英樹/平成25年 則本昂大/平成26年 秋山幸二/平成27年 藤浪晋太郎/平成28年 川崎宗則/平成29年 松坂大輔/平成30年 大谷翔平
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幾多の感動ドラマが生まれた平成の時代、先日引退したイチローも信頼した著者が「Sports Graphic Number」を中心に発表してきた傑作ノンフィクション・インタビュー記事を「1年1人」のコンセプトでセレクト。
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