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公務員からプロ転向の川内優輝が、
東京五輪よりも重視するものとは。
text by
杉本亮輔Ryosuke Sugimoto
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/04/06 11:00
座右の銘である「現状打破」。4月3日の所属契約会見ではプロとして新しい一歩を踏み出す決意を示した。
オンリーワンのプロランナーに。
所属契約を結んだ「あいおいニッセイ同和損保」は、五輪至上主義とは一線を画す川内の思いを理解し、今後の活動をサポートする。
自己ベスト更新など競技で結果を残すことはもちろん、各地を走り、人々と交流し、マラソンの楽しさを伝える。それが川内の理想のプロ像。一般的な実業団ランナーは年間2、3レースのフルマラソンにとどまるが、川内は2013年からの6年間でほぼ毎年、年間10レース以上、42.195kmを駆けてきた。そのスタイルは、これからも不変だ。
「合宿で引きこもって、大きなレースにフォーカスするのもプロの1つの形だけど、それは私のやりたいものとは違う。今まで通り、いろんなレースに出て、地域の人に喜んでもらえるような、本物の走りを見せていきたい。オンリーワンのプロランナーとしてやっていきたい。今までにいないプロになる」
人生そのものが走るということ。
川内に引退という概念はない。「メダルを狙いたい」と早くも闘志を高めている2021年世界選手権(米オレゴン州)は、34歳で迎える。同大会を最後に代表争いから撤退する可能性はあるが、日の丸を背負わずともオンリーワンの道は続く。
国内では和歌山や三重などでレース出場がなく、海外では南米はいまだ未踏。47都道府県制覇、世界全大陸制覇など、現役ランナーとして掲げる目標はいくらでもある。ボストンの優勝者は50年後にゲストとして招待されるため、2068年に81歳で軽快なランニングを披露することも川内のターゲットの1つだ。
「私にとって、人生そのものが走るということ。死ぬまで続けていきたい。走っていなければ、私の人生はつまらないものになっていた。感謝してもしきれないほど、大好きなスポーツ」
プロとなり「生」と「走」の関係性は、より密接に強固になった。生きるために走り、走るために生きる。オンリーワンの号砲は鳴った。コースは地球、距離は無限。誰も予測できないゴールに向かって、川内が走り始めた。