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打率4割よりも安打数に夢を見せた、
イチローの神髄と「野球の原点」。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNaoya Sanuki

posted2019/03/27 08:00

打率4割よりも安打数に夢を見せた、イチローの神髄と「野球の原点」。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

最後の最後までヒットを追い求めたイチロー。その記録は大リーグで永遠に残り続ける。

通算打率を見てみると……。

 では、打率ではどうなのか?

<2001年以降の4000打席以上の打率10傑>

1.ミゲル・カブレラ .3164※
2.ホセ・アルトゥーベ .3163※
3.ウラジミール・ゲレーロ .3158
4.マグリオ・オルドニェス .3118
5.マニー・ラミレス .3116
6.トッド・ヘルトン .3114
7.イチロー .3109
8.ジョーイ・ボット .3108※
9.マイク・トラウト .307※
10.ジョー・マウアー .306

 21世紀唯一の三冠王、ミゲル・カブレラが1位。彼は35歳だが、ここ2年、打率は3割を切っている。ここから打率を伸ばすのは厳しい。若いアルトゥーべがまもなく21世紀の首位打者になるだろう。

 イチローは現時点で7位。2007年に激しい首位打者争いをしたオルドニェスよりも低い。イチローは2001年から2010年まで、10年連続で3割を打ち続けた。2010年オフの時点でMLBの通算打率は.331(6779打数2244安打)だった。

 しかし2011年以降は3割をマークしていない。後半9シーズンの通算打率は.268(3155打数845安打)。これによって、通算打率は.311まで下がったのだ。

 厳密に言うなら、イチローは「アベレージヒッター」ではなく「安打製造機」だったと思う。彼は打率4割よりも「1本の安打」を求めていたのだ。

柳田と秋山の数字を比べると。

「アベレージヒッター」と「安打製造機」の違いとは何なのか。日本プロ野球の同じ1988年生まれの2人、柳田悠岐と秋山翔吾の過去5年の成績から説明しよう。IsoDは、四死球による出塁率だ。計算式は(出塁率-打率)である。H/Gは、1試合当たりの安打数である。

・柳田悠岐(ソ) 打率.330 IsoD.107 H/G1.19
・秋山翔吾(西)  打率.314 IsoD.079 H/G1.27

 柳田は首位打者2回、打率.350以上を2回記録している。秋山は首位打者1回、NPB記録のシーズン216安打など最多安打を3回獲得した。

 柳田は長距離打者でもあり、選球眼も非常に優秀で、3回も最多四球を記録している。IsoDは.107と極めて高い。秋山のIsoD.079も悪い数字ではないが、柳田よりは劣る。

 秋山は四球を選ぶより、安打を打つことを優先するのだ。その結果として、打率では柳田が秋山を大きく上回っているが、H/Gでは秋山が柳田を上回る。つまり柳田が「アベレージヒッター」、秋山は「安打製造機」タイプなのだ。

【次ページ】 四球を選ばず、安打を狙う。

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