炎の一筆入魂BACK NUMBER
前田でもなく、新井でもなく……。
カープの背番号1、鈴木誠也の風格。
posted2019/03/24 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
長野久義や小園海斗らに注目が集まる広島が、4連覇を狙う新たなシーズンを迎えようとしている。
新戦力が連日メディアを賑わせる中、今年のチームの鍵を握る鈴木誠也は、喧騒をかわすように静かに、そして確かな足取りでシーズン開幕へ歩を進めている。
昨年11月、右足首のボルトを抜く手術を受けた影響もあり、春季キャンプは初日から別メニューだった。ただ、初日から外野守備に就き、打撃では柵越えを披露。特にバッティングでは球を捉えたときの打球音がほかの選手とは違う。
打者としてまた1段階も、2段階も上がった強烈な印象を与えた。
最後まで別メニューが続いたのは、右足に不安があるからではない。首脳陣からの信頼の証でもあった。「誠也は放っておいても勝手に振る。打撃技術もほかの選手と比べたらかわいそうなくらい」と、東出輝裕打撃コーチは認める。
本人は24歳で与えられた特権に戸惑いながらも、同時に受け取った責任感と向き合いながら調整の階段を上がっていった。
打撃練習から殺気立った集中力。
長野や小園の加入がなければ、開幕前の広島の関心事は鈴木に集中していただろう。丸佳浩が抜けた打線の中軸として、そして今年から新たに背負うことになった背番号1の後継者として。
広島に6年ぶりに戻ってきた背番号1は、重たい。
前任者の前田智徳氏は“孤高の天才”として寡黙に打撃を追求する姿がファンの心をとらえ、絶大な人気を誇ったレジェンドだ。
そして後継者となった鈴木も、打撃を追い求める打撃人である。
類似点は多い。普段の打撃練習から殺気立ったようにバットを振る。練習でミスショットしても悔しがり、打撃投手の間合いが合わなければ、1メートル前に出て構えることもある。1球にかける集中力がほかの選手とは違う。