炎の一筆入魂BACK NUMBER
前田でもなく、新井でもなく……。
カープの背番号1、鈴木誠也の風格。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2019/03/24 11:00
鈴木誠也は2019年からカープの背番号1を担う。そのオーラは前任者・前田智徳に優るとも劣らない。
バットへのこだわりも同じ。
バットに対するこだわりが強いのも同じ。
メーカーから定期的に10本のバットが届けられる。
鈴木はまず芯の部分を右手でたたき、音を聞く……。そして両手で握り、感覚を確かめる……。それを1本、1本、繰り返す……。鈴木と担当者との間には静寂しかない。
しばらくすると、鈴木がバットを仕分けして、口を開く。
「すみません、この2本をお願いします。あとは大丈夫です」
長さや重さに大きな差はない。ただ、どうしても微妙な違いは生じてしまうものだという。
その微妙な違いから、鈴木の感覚に合うのはいつも10本中2本程度。その姿にアシックス社の担当佐々木邦明氏は「誠也くんが新しいバットにする動きって、前田(智徳)さんと全く一緒なんです。そして、あの緊張感。前田さんに似てきたなって思うときがあります」と前任者の姿と若き1番の姿を重ねたという。
でも「今まで通りふざけます」。
ただ……鈴木は鈴木。前田の背中を追うわけではない。
「背番号が変わったからといって、今までの自分じゃないようにやるのは違う。もちろん、試合に出る以上は責任がある。でも、前田さんの孤高というイメージと、僕はスタイル的に違う。今まで通りふざけさせてもらいます」
打席で見せる獲物を狙うハンターのような姿が嘘のように、バットを離せば一般の24歳と何ら変わらない。チームメートとふざけながら、ニコニコ笑っている。チームの4番となっても、野球に対してだけでなく、人に対しても、生活に対しても、おごることはない。