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号泣する上谷沙弥と肩を組んで…“引退決定”中野たむは「宇宙一幸せなプロレスラー人生」で何を手にしたのか? 試合後、通路の片隅で見た“ある光景”

posted2025/04/28 17:02

 
号泣する上谷沙弥と肩を組んで…“引退決定”中野たむは「宇宙一幸せなプロレスラー人生」で何を手にしたのか? 試合後、通路の片隅で見た“ある光景”<Number Web> photograph by Essei Hara

3カウントのフォール負けで引退が決まった中野たむ。リングに横たわりながら、勝者・上谷沙弥の手を握っていた

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原悦生

原悦生Essei Hara

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Essei Hara

 4月27日、横浜アリーナで行われたスターダムの「敗者引退マッチ」は上谷沙弥が勝利し、敗れた中野たむが引退した。壮絶な26分9秒だった。

号泣した上谷沙弥「お前のことが大好きだ」

「中野たむのすべてを奪ったぞ! でも、なんか苦しいな。なんでこうなったの? お前のせいだからな。お前のせいで私はプロレスラーになった。お前のせいで、ケガもした。お前のせいで、強くなった。お前のせいで、お前を引退させることになった。全部、全部、全部、お前のせいだからな」

 勝利のマイクを握りながら上谷は泣いていた。

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「でも、今日、お前のすべてを奪ってわかった。私はお前のことが大好きだ。プロレスを始めた時、真っ暗で生きる希望がなかった私に、希望の光をくれたのはたむだった。私が真っ黒に染まった時もずっと信じてくれたのは中野たむ、あんた一人だけだった。私にとってあんたは光り輝く一番星だよ」

「汚い顔」と中野は上谷を見た。

「上谷さ。不器用すぎでしょう。愛を忘れたんじゃなかったんだね。たむはこんな不器用で、泣き虫で、メイクもおかしい後輩のせいで大変な思いをしたけれど、あなたがいたから、ここまで生きられた。戦えた。ごめんね。ありがとう。上谷、あなたはさ、これから中野たむの呪いを一生背負って生きるんだよ。ここにいるみんなもそう。全員、たむのことを一生忘れちゃだめだからね」

 客席がどよめいた。上谷が叫んだ。

「背負うわけないだろ。バカ! ブス! オタンコナス! 腐ったミカン!」

「腐ったミカンはお前だ」と中野が返す。上谷は続ける。

「そんな重たいもの背負わすなってよ。でも、お前に出会えて私はここまで強くなれた」

「宇宙一幸せなプロレスラー人生だった」

「上谷さ、最後に一つだけ聞いてもいい? プロレスラーになってよかった?」

「もちろん」と上谷がうなずいた。「あんたに出会えて幸せだったよ。バーカ!」

「たむも宇宙一幸せなプロレスラー人生だった」

 二人とも泣いていた。

【次ページ】 美しいスープレックス、感情的な激闘…中野たむの魅力

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