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菊池雄星を変えたノートと思考法。
「自分を知ることで全てが良い方へ」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/03/20 11:30
菊池雄星という選手の思考法は、おそらく多くの人のイメージを裏切る精緻で繊細なものだ。
理想の人物になりきる、という方法。
『雄星ノート』で紹介している「2017年のルーズリーフ」は、その1年間で菊池が書き続けた日記だ。この日記には、右側に菊池が目標にしているドジャースのクレイトン・カーショウの写真がプリントされている。ここで菊池が書いていたのは、ただ1日を振り返る日記ではなく、「カーショウ」という目標の人物になりきった自分から1日を振り返ることだった。
菊池はこの時の経験を次のように話している。
「メジャーリーガーになりきってみて、今の感情や思考などから抜けてみる。一歩横から自分を見るようになると、自分にアドバイスができるようになりました。試合に負けて落ち込んだりして、自分の課題に蓋をしてしまうことがあったんですけど、成功した未来から自分を見ると、その負けに意味づけができるようになりました。いかに自分を客観視するかということです」
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理想像をイメージして、自分がその人物になりきり、そこから現在の自分を客観視していく。そうすることで、目の前の様々な問題が整理されていった。
「知識欲が高いことを受け入れて」
菊池はもともとたくさんの情報を得たいという性分だ。例えば、トレーニング方法は片っ端から体験してきたし、関連書物にも必ず目を通してきた。頭でっかちになる傾向と紙一重だったが、自分を客観視できるようになると、今何が必要で何が必要ないかが整えられていったという。
「自分を知るということ。僕は知識欲が高い人間だということが分かったので、そこで知ろうとする行為をやめるとエネルギーが下がる。そうではなくて、自分はそういう人間だと分かった上で行動していく。そうしていくうちに、全てが良い方向に進むようになりました」
メンタルトレーニングではあるものの、実際は「自分をプロデュースする」トレーニングと言えるかもしれない。いわば、“自分革命”だ。常になりたい自分を設定し、そこに向かっていく。その際に、一時の勝敗や対戦相手に固執するのではなく、自身の中にある絶対像と対峙していくということである。