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菊池雄星を変えたノートと思考法。
「自分を知ることで全てが良い方へ」
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/03/20 11:30
菊池雄星という選手の思考法は、おそらく多くの人のイメージを裏切る精緻で繊細なものだ。
雄星をメジャーリーガーにした方法。
3月20日に発売される『メジャーをかなえた雄星ノート』は、シアトル・マリナーズの一員として、2019年のMLB開幕シリーズの第2戦に先発する菊池雄星投手が成長を遂げた足跡そのものだ。
彼はいかにしてメジャーリーガーになったのか。
菊池の日本時代を振り返ると、プロ入り後は伸び悩んでいたというのが一般的な印象だろう。甲子園のスターだった田中将大やダルビッシュ有のように、はたまた大谷のように入団後1年目から活躍することはなく、2年目に4勝を挙げはしたものの、上昇気流に乗ったのは4年目にシーズン9勝を挙げてからだ。
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彼に転機が訪れたのは、メンタルトレーナーの山家正尚氏とパーソナル契約を交わした2年目のオフ。山家氏との日々は、菊池の成長に大きな効果をもたらした。
メンタルトレーニングというと、気持ちの弱い選手が、本番で力を発揮するために導入するものと思われるかもしれない。
もちろん菊池もそういったトレーニングはしてきたが、山家氏と特に力を入れて実践してきたのは、セルフイメージの構築だ。
山家氏は言う。
「セルフイメージを作り上げるというのは、なりたい自分、理想の自分を掲げてもらって、そこを目指して行動していくことです」
セルフイメージとは、「自分がなりたい人物像」のことである。来年、5年後、10年後、20年後、野球界でどんな選手になっていたいか、日本社会でどういう存在でありたいか。「理想像」を設定するというものだ。
気を使えることは、マイナスにもなりうる。
とはいえ「理想像」を設定しても、より難しいのは、そのセルフイメージを保ち続けられるかということだ。自分ごととして考えると分かりやすいが、何かしらの目標があったとしても、日々の仕事に没頭するうち、つい忘れがちになってしまう。
菊池が山家氏と取り組んできたのは、セルフイメージの構築と、そこに向かって進み続けるための日々の行動を確認していく作業だった。
山家氏が続ける。
「雄星選手と初めてお会いした時の印象は、純朴であることはもちろん、ものすごく気を使う子だなぁと。ただそれはメリットもあるんですけど、気を使うというのは気づく力ですから、マイナスなこともありました。気づけてしまうので、自分のエネルギーを下げてしまっていました。
そこで取り組んだのが意識の変え方です。気づいてしまう自分を客観的に見てどう思うか。今の自分から抜け出して、自分を観察するということをやりました。そうすることで、余計な考えを入れることが自分のエネルギーを下げているのが分かる。観察している自分の意見の方が冷静なので、それに従って行動をしていくということです」